2014.9.1

こどもの可能性を拡げる情報

斉藤淳氏に聞く10歳までの学ぶ土台づくり

こどもの“問う力”を育てるために

アメリカの名門校イェール大学で教鞭を執り、帰国後、小学生から高校生までを対象とした英語と教養教育の学習塾「J PREP斉藤塾」を開校した斉藤淳先生。受験に向けた勉強に追われる日本のこどもたちに、イェール大学で学んだ教養教育の大切さ、そして、真の学びの楽しさを伝えたいと言います。斉藤先生の著書『10歳から身につく 問い、考え、表現する力』を受け、その下地づくりとして幼少期にできることについて、お聞きしました。

知的成長に欠かせない“問う力”
教養教育を重視するイェール大学で学び教えた10年間を経て、斉藤先生が気づいたのが、どんな学問でも、「問う・考える・表現する」という基本的な学びの作法は共通しているということだった。そして、こどもの頃からこれらの力を身につけておくことが必要だと、斉藤先生はいう。なかでも、“問う力”はこどもたちの知的成長においてもっとも重要なものだと斉藤先生は考える。
「“問う力”とは、自ら問題を設定する力です。習ったことを覚える受動的な“学習”から、主体的に考える“学問”へと、学びをステップアップするために欠かせない力なのです」
著書『10歳から身につく 問い、考え、表現する力 ぼくがイェール大学で学び、教えたいこと』(NHK出版)の中で、斉藤先生は、日本のこどもたちは「読み書きそろばん」や知識を覚えることは得意な一方、自ら問いを立て、その解決策を考え、自分の意見を表現し、仲間と議論することは苦手であると、指摘する。
「日本の小学校から高校までの教育課程では“学習”が中心で、“問う力”を育てる環境が整っていません。日本のこどもたちは、問うことが苦手であるというよりは、そのような学びのチャンスがなかったのです。学問とは、自ら“学び問う”営みです。日本の10代のこどもたちには、自由に問う態度を身につけてほしいと思うのです。そのためには、私たち大人が、こどもに“問いかける自由”を用意せねばなりません。
この“問う力”、そして、自ら考え、表現する力を育てるためには、『10歳』が一つのターニングポイントです。10歳頃になると、抽象的な概念や論理構造が理解できるようになり、抽象的思考力や論理的思考力が高まってきます。また、感情や他者との関係性などのこころの環境も整い、“学ぶ土台”ができるのです。一方で、10歳頃までに、意欲や知的好奇心、自己肯定感、自立心といった素地が身についていないと、この“学ぶ土台”は弱いものになってしまいます。10歳は、学問の旅路へのスタート地点。それまでにどれだけしっかりと準備ができているかが、その後の成長を大きく左右するのです」。
自分の“好き”を見つけ、伸ばせる環境を
では、10歳までには、どのようなことを心がけるべきなのだろうか。
斉藤先生は、「抽象的な思考の土台が形成される10歳までに、具体的な経験をいかに積むかが重要になってきます。そして、その点において、実は日本の学校教育はとても優れているのです」と言う。世界各国から学生が集まるイェール大学で過ごした経験から、斉藤先生は日本の教育の良さに気づいた。
「絵を描いたり、体育で体を動かしたり、家庭科で家事を学んだり自分たちで掃除をしたりと、日本の教育ではライフスキルが身につきます。さらに、林間学校や遠足などの体験学習の機会もたくさんあります。日本にいると、当たり前すぎて気づかないかもしれませんが、これらのことは、他の国に比べて日本の教育の素晴らしいところといえます。ですから、保護者の方々には、もっと学校を信用してほしいと思います」。
そのうえで、斉藤先生は、親が自分の思いを抑制することが大切だとも話してくれた。 「まずは、大人の“〜させたい、〜してほしい”と望む気持ちを我慢することです。こどもに自分の意思を押しつけすぎてはいけません。日本をはじめとするアジア諸国では、親がレールを敷きたがる傾向があります。でも、このレールは親目線で敷いたもの。こどもから見れば、歩きたい道ではないこともあるでしょう。アメリカ人家庭を見ていると、こどもの自発性を伸ばすこと、そして、こども自身が自分は何が好きなのかを知る機会をとても重視しています。好きなことを見つけたこどもは、もっとやりたい、もっと知りたいと、知的好奇心の赴くままに自ら探究し、のびのびと学んでいくのです」。
日本の親たちがついレールを敷いてしまうのは、親自身が学ぶ楽しみを知らないからだと斉藤先生は考える。「無意識のうちに、自分が実現できなかったことを、こどもを通して実現しようとしていないでしょうか。こどもがどんな性格で何に興味があり、どんな反応を見せるのかをよく把握し、こども主体の観点で、“レール”ではなく“学ぶ環境”を整えてあげることが大切だと思います」。
また、普段の生活では、こどものために何かをしてあげようと思いすぎるのではなく、自分が学ぶ姿を見せることも大切だと斉藤先生は語る。
「親が学ぶ姿というのは、こどもにとって大きな影響力があります。ときに真剣に、ときに楽しそうに大人が知的活動に打ち込む姿を見ると、学ぶことって楽しそう、どんなおもしろいことがあるんだろうと、こどもはわくわくします。いっしょに図書館や本屋さんに行って、親の本を選ぶのに付き合わせるのもいいでしょう」。
こども自身が、“なぜ”と考えることこそが、自ら“問う”力、“考える”力を育む。 「こどもの“なぜ?”の問いに向き合い、いっしょに考えたり説明したりすることも大切です。普段の会話の中で、こどもに“なぜ?”と問いかけることも心がけてほしいと思います」。
「これからの“生きる力”は、多様な価値観の中で自分の意見を伝えられること」だと斉藤先生はいう。
こども一人ひとりに合った学び方がある
10歳をターニングポイントに挙げる一方で、斉藤先生は、「こどもにやる気が見られないなら、無理は禁物」という。
「学び」のおもしろさに目覚めるタイミングやきっかけは、人それぞれです。10歳というのはあくまでも一つの目安ですので、それより早い時期に学ぶ準備が整う子もいれば、遅い子もいる。何歳だからこれをやらせる、という一般論にとらわれすぎてはいけません。また、先取り学習をさせたがる保護者もいますが、それがその子の発達に合っていなければ、こどもにとっては苦痛でしかなく、勉強が嫌いになってしまうことだってあり得るのです」。
そして、いい教育とは、いかに“寸止め”ができるかだと、斉藤先生は言う。 「答えを教えることは誰でもできますし、簡単なことです。重要なのは、最後まで教えるのではなく、ここぞという距離で手放し、こどもにバトンを渡すこと。そうすることで、自ら考え、探求し、学びたいという意欲がこどもの内に育まれるのです」。
グローバル化が進み、多様な価値観が共存するこれからの社会では、相手の意見をしっかりと聞いたうえで、自分の意見を理由や根拠に基づいて主張する、というコミュニケーション力が必要になる。そして、教育の場でも、同じことがいえる。クラスメイトの意見や疑問を受け止め、わからないことがあれば自ら質問し、自分の考えや意見を積極的に発言する。こうした“学び合い”ができる雰囲気づくり、信頼関係づくりが重要だと、斉藤先生はいう。
「たとえ質問が的外れでも、答えが間違っていても、恥ずかしくない。むしろ、それは本人にとっても周囲にとってもプラスになります。アメリカでは、質問をした生徒や学生がいると、教師はまず、“It’s a good question!(それはいい質問だね!)”と声をかけます。これからは、日本の教室でも、生徒が堂々と間違えられる雰囲気をつくっていくことが大切だと思います。そのためにも、日本の社会全体が、失敗しながら学び、成長していくことにもっと寛容になる必要がありますね」。
 
≪斉藤淳先生の近著≫
『世界の非ネイティブエリートがやっている英語勉強法 』
(KADOKAWA/中経出版)
『10歳から身につく 問い、考え、表現する力―僕がイェール大で学び、教えたいこと』
(NHK出版)
 
【斉藤淳先生の講演会のお知らせ】
WorMo‘では、斉藤淳先生により詳しくお話を伺う講演会を企画いたしました。
グローバル時代での子育て法と、英語教育法について、お話を伺うめったにないチャンスです。
是非、ご参加ください!
日時:2014年10月19日(日)
第一部 : 「グローバル時代に必要な知力を養うための子育て」 13時~14時15分
第二部 : 「10歳からと10歳まででは英語教育法は違う!」 15時~16時15分
*詳細、お申し込みは Events Information をご覧ください。

斉藤淳(さいとうじゅん)

1969年山形生まれ。J PREP斉藤塾代表。イェール大学大学院で政治学を学び、博士号を取得。同大学で政治学科の助教授を務めたのち、2012年に帰国。同年、東京都と山形県で中高生向けの英語と教養の塾を創業する。著書に『世界の非ネイティブエリートがやっている英語勉強法』(中継出版)、『10歳から身につく 問い、考え、表現する力 ぼくがイェール大学で学び、教えたいこと』(NHK出版新書)など
【J PREP斉藤塾 HP】はこちら

文/笹原風花 撮影/石河正武