2014.4.2

こどもの可能性を拡げる情報

しぜんの国保育園のしぜんの中で育む主体性

日本の学び/育つ力が伸びる大人との関係


豊かな自然を活かした「里山」保育で知られる『しぜんの国保育園』。「すべてこども中心」という理念のもと、こどもたちがありのままの姿で成長を実感できる保育を実践しています。園長の齋藤紘良先生に、そんな日常から育まれる「気づき」についてお話を伺いました。

「こどもが主役になる」を意識した関わり方
しぜんの国保育園の保育理念は、自らの行動で育つ「芸術」、生きることへの興味「食育」、自然との共生を考える「自然」の3つ。その軸となるのが、「今日は何をしよう」から始まる1日の過ごし方。こどもがその日、何をどうしたいのか、を自分で決めた1日は、「今日は○○をしたよ」という実感、充実感に満たされるというものです。そしてこの積み重ねは、こどもの自信、自己肯定感を育てる・・・こうした考え方を園全体で共有し、実践しています。

そんな同園の保育はちょっとユニーク。基本的に、年齢別保育の「クラス」、異年齢保育の「しぜん谷」、保育者たちが自分の得意なものを活かして保育内容を組み立て、こどもたちと一緒に体験する部活動保育「ワークショップ」で構成。それぞれ型にはまらない方法で、こども自身の気づき、学ぶ力を引き出すような関わり方をしています。そのなかで、同園が大切にしていることについて、齋藤先生は次のように話してくれました。

「人と人とのコミュニケーションは、プッシュ(押す)とプル(引く)の関係性が大事だと思っています。『今日は何をしよう』がこどもから発信されるときもあれば、大人がそれを引き出すために働きかけた方がいいときもあります。これをバランスよく保育に活かすのが保育者の役目。そのため、“すべてこども中心”という共通意識をもって日々接しています」。

この思いを実現するために取り入れているのが、ファシリテーション(話し合いがスムーズに流れるような場づくり)の考え方。状況に応じて話題の中心人物が変わるファシリテーションの場では、誰かの言葉がきっかけとなって大きな流れが始まったり、新しい視野につながったりと、予想外の出来事が楽しめると言います。

「気をつけているのは、保育者がすべてにおいて『今日はこれをするよ』と動きすぎないようにすること。日頃からこども一人ひとりが主人公になれるような場が必要です。それをつくるためには、計画外のことも大事な経験です」

普段、過ごし慣れた空間で安心感を抱きながらも、こどもたちが自発的に考え、動くことが大切。それを自然と身に付けるためには、大人が適切なタイミングで“そそのかす”ことが効果を発揮する、と齋藤先生は話を続けます。

「具体的には、背中をぽんと押すような言葉をかけるよう意識しています。教えたり、場を仕切るのではなく、その場の空気があたたかくなったり、集中力が生まれるような雰囲気になるのが理想ですね。保育園が、こどもにとって自分の考えや内に秘めた思いをぽろっと出せるような場になれたらと思っています。大人もそうですが、想像以上にそれが難しいシチュエーションはあります」。

得意な部分を伸ばそう、こどもも大人も
大人がこどもをそそのかす・・・つまり、こども一人ひとりの自由な好奇心、表現力の芽を引っぱり出す「そそのかし」。その時間として挙げられるのが、毎回何が起きるかわからない月に一度の部活動「ワークショップ」です。ここでは、それぞれ所属する部員たち(保育者と職員)が企画や運営のすべてを担当するそうです。

この活動が始まったきっかけは、約3年前、齋藤先生が保育者たちの履歴書を見ていたときのこと。学生時代のクラブ活動や経歴、趣味、特技など、1人ひとりの新たな一面を感じさせる内容に「これはおもしろい!活かすべき」と感じたそうです。その後、「美術部」「音楽・演劇部」「環境部」「園の庭部」「身体部」「建築部」と、6つのグループを提案。それぞれの部では、部員らが話し合うなどして毎回テーマを決めて準備し、こどもたちと一緒にワークショップを行っています。

入り口に掲示された『部活月次計画表』計画表にも活動の個性が 現れている。

「自分たちがやりたくてやっていることだから、『こどもにこんな経験をさせてあげたいよね』『こどもはどう思うだろう』という言葉が自然と出てくるんです。こうした時間を通して、保育者たちは仲間や先輩、さらに後輩のこどもに対する目線を感じることができ、自分もそこから新たな保育の目線が開かれることを体験します。保育は、経験よりも目線の位置が大切。この部活動は、それを実感できる有意義な時間になっていると思います」。 こどもがのびのびと毎日を過ごすためには、まず大人である保育者自身が、自分らしく人や物事と関わり合うことからはじまる。そう感じることのできる取り組みです。

とはいえ、親子の関係に目を向けると、親は自分の得意なことばかりではなく、「こどもにとっていいこと、モノ」を偏りなく与えたいという方も多いはず。「親の好きなもの、得意なものに偏っていいと思います。自分の好きなモノ、得意なことでお子さんと関わった方が、大人もこどもも楽しい。ぼくは仲間と音楽活動をしていますが、こどもは、その姿を見て『楽しんでいいんだ』と感じるようです。大人の姿を見て、こどもが『大人になったらもっと楽しいことが待ってそうだぞ』と思えることって、とても大事だと思います」。

また、ときには計画通りにいかないことや失敗もとても貴重な経験だと齋藤先生は言います。

取材に伺ったときは、“環境部”による霜柱ワークショップが行われる1時間ほど前。ワークショップの内容は、園内に自然発生した霜柱を見つけて、触って、知ろうというもので、こどもたちは霜柱を小さな手のひらにのせたり、つまんだりして「冷たい!」など発見に満ちた時間となりました。しかし実はその日、朝から気温が比較的高く、霜柱の出現が微妙という状況から始まっていたのです。

「もし霜柱が見つけられなくても、そのときならではの気づき、学びがあります。こんな風にうまくいかない状況で、『どうしてだろう』と霜柱について考えることも、こどもたちの生きる知恵につながると思います」。
霜柱を見つけて持ち帰りたがるこどもたちに、「ポケットにしまったらどうなるかな?」と先生が問いかけて、実験していた。
心地いい関係性がこどもの肯定感につながる
乳幼児時期といえば、自我が芽生え、さらに他者との関わりも少しずつ意識し始める重要な成長期。いつか社会に巣立つ基盤をつくるためにも、まずこの時期に、「大人がこどもという一個人を受け止めることを何より優先させたい」と、齋藤先生は語ります。

「自己肯定感とは、自分のことが好きになるという肯定感です。さらにもう一つ、コミュニティのなかで自分は好かれているかどうかも、自己肯定感の重要な要素となります。このふたつがバランスよく存在し、『私は自分のことが好き』『私たちは私のことが好き』という二方向が成立して初めて自己肯定感につながります。そこで自分の主張ばかりをする子には、ちょっとまわりを見てみようとか、自分の存在がそのコミュニティのなかではどうなのか、など気づいてもらえるための働きかけもします。また、いつも怒られてばかりで自分のことが認められないという子に対しては、保育園ではとにかく受け入れることから始めています」。

「特に、0歳~2歳までは無条件にたっぷりと受け入れてあげたい」と齋藤先生は続けます。 「自我が芽生える時期は、まわりの大人に受け入れられることが、他人を意識し始めるきっかけになります。こどものコミュニケーションの発達時期に、どんな声かけができるのか、それが大事です。そのためにはまず、こどもを毎日見ること。保育園なら、保育者自身が、こどもにとって自分が常にそばにいる存在だと自信をもつことがいちばんの解決策になります。『○○ちゃん、一週間前はこうだったのに変わってきた』『いつもと違う』という変化に気づけるかどうかです」

また家庭の場合は、お母さんひとりではもちろん、夫婦ふたりだけで解決するのもなかなか難しい。まわりを巻き込み、祖父母や他人の祖父母、それ以外の人もいるコミュニティのなかで、こどもがいろいろな目に見守られていることが大切なのだそうです。「身近に祖父母がいない共働き家庭は、保育園を頼れるコミュニティとして活かしてほしい」と齋藤先生は言います。

「保育園は、『教育』と『養護』というふたつの目線をあわせもった場だと思っています。『教育』では、こども自身の気づきから主体性をもつことが最も大事。その道筋において、その子が必要とするタイミングで成長に必要な手助けをするサポーター的な役割を大人が担います。それに対して『養護』は、こどもが暮らす環境、状況を大人が理解し、その子に対する知識を増やすこと。『昨晩、寝るのが遅かったから眠いのかもしれない』という情報です。『一週間前にインフルエンザにかかったから、今週はゆっくりあそばせよう』とか、その子の取り巻く環境をきちんと理解してあげることです」

霜柱を見た後に描いている絵。観察力の高さに驚かされる。
色鮮やかな霜柱。こどもの感性にはっとさせられる。
共働き生活で、こどもとの会話を楽しむ意味
保護者とは毎日、こどもたちの一日の過ごし方や気づきを共有しているという同園。共働き家庭の両親にとっては、日中のこどもの様子を知ることができる時間でもあります。齋藤先生は、帰宅後はそれを活かすなどして、「こどもの話をできるだけ聞いて、話をしてほしい」とアドバイスします。

「こどもたち一人ひとりには一日の物語があって、それをどれだけ自分の中に落とし込めるかがこどもにとっては重要なことになってきます。今日はどんな経験をし、何を考え、何を感じたのか。ご両親には、わが子のそういったストーリーを感じてほしいです」 そのためにも、たとえば保育園への連絡帳に「パンツがはけるようになった」といったおおまかな報告だけではなく、そこに至るまでの小さな会話までもぜひ書いてほしい、と齋藤先生は続けます。

「そういうやりとりこそ知りたいです。そこから、どんな保育にしようかといった次のステップに発展できますし。もちろん家庭が一番で、家族がその子に一生寄り添える存在であり、私たち保育園は親のサポーターでありたいと思っています。だから卒園しても、それぞれの家族にとっていつでも帰れる場所になれたらうれしい。もし学校では言えないことがあったら、ここで話してもらえたら何か役に立てるとは思います。地域のなかで、ひとつのよりどころになれたら」。

父親の役割は「こどもについて話す」こと
家庭では、5歳の男の子のお父さんでもある齋藤先生。園長として、一児の父親として、「子育ては日々勉強、勉強です」と話します。そして、お子さんが4歳のときに、字や計算を教えたという話を聞かせてくれました。丁寧に教えようとする齋藤先生に対し、お子さんはまったく興味を示さなかったそう。ところが、その約半年後、あることをきっかけに自分からすすんで字を覚えようとしたそうです。

「好きな友だちと文字を書いて交換したいという思いが芽生えたようです。そうすると、街中で『あの文字はなんて読むんだろう』と気になったり、自分にとって文字の必要性を感じたようです。私が教えていたときは、文字への興味はないけれど基本的に親のことが好きだからやりたいという気持ちはあったのだと思います。でも、まったく脳に入らず、3秒前のことを忘れてしまう状態。ただ、今のように文字を覚えたいと本人が自発的に感じてからは、親が声かけをしなくても毎朝ドリルをすすんでやるようになりました。これはおもしろい発見でしたね。こどもの発達にあわせてそのとき必要なものを出せるか、何を伝えていくかが必要だと思います」。

さらに、普段こどもたちの様子から感じる「父親の役割」については次のように語ります。 「育児中の男性は、こどもについて話す会話をできる限りもってほしいです。こどもは、自分の近くにいる存在が、自分のことを話題に挙げてくれているかどうかをちゃんと見ています。こどもがそれを父親に対して感じることができれば、こどもの安心感は満たされます。また、こどもとの会話が多いほどこどもへの理解も深まります」。

忙しくてなかなか育児に関われない、何を話せばいいかわからない、というお父さんにとっても、日常生活でできることとして試してほしいのが、「意識をする」ということ。家庭のなかで「ニュースや仕事、大人だけがわかる話題になっていないか」「パソコンや携帯電話に向かう時間が多くないか」を考えて行動するだけでも、その後の関係は違ってくるそうです。「せめてこどもの前では気をつけるようにしてください」と齋藤先生は言います。

「こどもを主人公にした会話を織りなすことは、夫婦や家族で子育ての方針をもつことにもつながります。父親が子育てに関わると、一人ひとりのこどもが幸福を感じ、同時に父親側にも、子育てに関わる必然が生まれると思っています。父親に関わらず、もっと家族がこどものことを話す機会が増えれば、間違いなく日本の子育て・子育ちの水準は向上するはずです」

◎しぜんの国保育園
1979年開園。創設から35年、0歳児から5歳児まで115人のこどもたちを保育の中心に置いた独自の保育をいくつも生み出してきた。子育て支援や子育て広場事業、地域活動、国際交流などにも積極的に取り組んでいる。物語を感じさせるメニュー本として、共著『おいしいものがたりメニュー』(すずき出版/1998年)、共著『ものがたりレシピ』(幻冬舎/2007年)なども出版している。
しぜんの国保育園はこちら

 

 

齋藤

しぜんの国保育園園長。地域の自然を活かした「里山保育」の理念と、幼稚園主事や長期にわたるヨーロッパでの福祉・文化視察など
の経験をもとに、アートと自然を基盤にしたこどもの創造性を育む
保育を実践している。里山キッズ運営実行委員、山﨑小学校スクールボード理事、おもちゃコンサルタント。5歳男児の父。4人組の
チルドレンミュージックバンド「COINN(コイン)」ではチェロを
担当。保育園や幼稚園、地域イベントやライブハウスを中心に親子で歌える楽曲を演奏している。

  文/高梨莉己 撮影/野村一磨