2019.8.8

こどもの可能性を拡げる情報

未来の担い手を育てるドイツの移民教育

世界の学び/ドイツ語のレベルアップが育成のカギ

世界の教育情報第22回目はドイツから。2015年、シリアやイラク、アフガニスタンから100万人以上もの難民を受け入れ、今や全人口の5人に1人が移民(ないし難民)といわれ、ヨーロッパで最も移民が多い国となったドイツ。一方、ドイツ国内における少子高齢化は深刻で、今後のドイツ経済を支える移民のこどもたちの教育が緊急課題です。この問題は少子高齢化という同様の課題を抱える日本にとっても他人事ではありません。今回は、ドイツの移民とそのこどもたちに対する教育事情を紹介します。

移民に頼らざるを得ない
ドイツの現状
1989年のベルリンの壁崩壊後、経済成長が好調なドイツですが、男性の育児参加率が低く、女性への負担が重いなどの理由で、国内における出生率は1970年代前半以降減少傾向にあります。一方2015年以降、社会保障が手厚いなどの理由により、ドイツに定住する移民や難民が急速に増加していることもあり、国の経済を支える労働力として移民やそのこどもたちを育てることが重視されるようになりました。
長く続いた人口減少の結果、外国人労働者へのニーズは、鉄鋼、製造、工事現場、清掃などの肉体労働だけにとどまらず、高い技術を要するコンピューターやテクノロジー関連にまで広がっています。ところが、移民一世のドイツ語レベルはけっして高いとはいえません。また、ドイツで生まれたとしても、親がドイツ語を理解し、話せなければこどもの教育にもその影響はおよびます。移民政策のなかではドイツ語教育が強化されつつあるものの、2015年のOECD(経済協力開発機構)の調査結果では、ドイツ人家庭のこどもたちに比べ、移民のこどもたちの算数と科学の成績が50%も低いことが判明しています。
将来、移民や難民のこどもたちが専門職などで活躍するには、ドイツ語は母国語レベルを目指すことはもちろん、数学、エンジニアリング、科学など、高度な学問や知識を身につけることが課題です。
移民のこどもたちへの
具体的な取り組み
移民のこどもたちもドイツ人のこどもたちと一緒の小学校に通い、ドイツ語を学びますが、規定の人数がそろえば母国語を学べる授業や、イスラム教などの宗教や自国の文化を学べる授業を開講するなど、アイデンティティを失わないための手厚いサポートも提供されています。最少開講人数は、自治体によって異なりますが、例えばラインラント=プファルツ州の州都マインツでは、同じ母国語を話す移民のこどもが10人そろえば、授業ができる。自分のルーツやバックグラウンドも大切にできる環境づくりが移民であることへの劣等感を和らげ、“学びに対するモチベーションアップ”につながっています。
学校生活については、カトリック系スクールでは、移民や外国人が1割程度の学校が多く、先生の目がとどきやすいこともあり、ドイツ人のこどもたちの中にスムーズに溶け込めるよう積極的に働きかけを行う傾向にあります。しかし、大人数のこどもたちが通うマンモス公立校では、外国人が全体の3~4割りを占める学校も少なくなく、同じ国のこども同士でかたまってしまうことも多いようです。また、教育を重視していない移民家庭もあり、文字そのものに慣れていないこどもたちもいます。そのような場合、ドイツ人のこどもたちに比べ、文字を覚えて書くのに一年以上も遅れをとることも多々あります。その結果、小学校低学年でも留年するこどもたちもいるくらいです。文字が読めないので、算数の文章問題や文章を書いて答える問題もうまく解けないことも。そのため、移民の親にもこどもの教育を重視してもらえるように、ドイツ語教育支援を行ったり、無料でこども向けの本を小児科や小学校で配ったりしています。
急増する移民への対策
ドイツでは、こどもへの教育とともに、大人の移民への教育対策にも力を入れています。2005年1月には『移民法(Zuwanderungsgesetz)』が施行され、『統合コース(Integrationskurs)』と呼ばれる成人向けのドイツ語強化プログラムが国全体で導入され、ドイツ語はもちろん、ドイツの法秩序や歴史、文化に関する基本的知識習得の支援がスタートしました。基礎言語講習(300 単位)+言語向上講習(300 単位)で構成される基本コースのほか、こどもを持つ親を対象とした特別コースも開設。その後も改善を続けています。また、2007年には、より外国人に開かれた社会のための移民政策『国家統合政策(NIP=National Integration Plan)』を打ち出しましたが、政策から10年以上が経過した今も課題は多く残っています。
ドイツ語教育をはじめとする移民への支援は戦略的に強化されているものの、2016 年に統合コースを受講した移民、約 340,000 人のうち、39%の133,050 人しか修了していないのが現実です。
また、ドイツ社会とイスラム社会の統合も重大な課題としてあります。大人の移民への教育政策が思うように進んでいないことも原因の一つですが、文化的背景の違いからドイツ社会にうまく馴染めず、移民や外国人独自のコミュニティとしてドイツ社会から孤立していることも課題です。
戦後から移民を受け入れてきたドイツ。2000年代に入って移民統合政策を積極的に打ち出し、ドイツ語教育の強化を図ってきましたが、依然として移民のこどもたちの学力は低く、学校環境においてもドイツ人のこどもたちとの間に溝があるのが現状です。しかし、社会統合に向けて努力し続ける姿勢には、今後同様の課題に直面することが予想される日本が学ぶべき点は多いのではないでしょうか。

     

ハモンド綾子

グローバルママ研究所リサーチャー。日本でメディア会社勤務後、1999年渡英。ファッション/ホテル業界勤務を経て、2006年よりライター/リサーチャー/翻訳者として活動中。イギリス人の夫、バイリンガルの息子2人と4人暮らし。


グローバルママ研究所

世界33か国在住の170名以上の女性リサーチャー・ライターのネットワーク(2017年4月時点)。企業の海外におけるマーケティング活動(市場調査やプロモーション)をサポートしている。