2019.6.13

こどもの可能性を拡げる情報

性差別をなくすための取り組みは小学校から

世界の学び/イギリスのジェンダー平等教育の今

世界の教育情報第21回目はイギリスから。イギリスでは、近年、男女の賃金格差が社会的に問題視されています。これを受けて、教育分野においても、2018年、教育省によって『ジェンダー平等(Gender Equality)』に関する具体的なガイダンスが交付されました。今回のレポートは、教育現場におけるジェンダー平等への取り組みについて紹介します。

教育現場にも影響を与えた
イギリスのジェンダー問題
イギリスでは、1970 年代に男女間の賃金格差や性差別の禁止に関する法律が施行されたことで、女性管理職は増えましたが賃金格差の解消は進まず、2017年4月には、78%の企業で女性の給与が男性より低いことが明らかになりました。このことを受けて世間を大きく騒がせたのが、BBCの高額報酬者への給与格差です。編集長という同じ立場にもかかわらず男性の方が50%以上も多くの給与を受け取っていたのです。
当初BBCは、「女性に対する体系的な差別はない」と反論していましたが、BBC内部で男性記者が自ら減額に合意し、SNSでも反対運動が広がったことで、BBCは不当に低い給与の支払について謝罪しました。
こうした 社会背景と教育現場での問題点を踏まえ、『平等法(Equality Act 2010)』(※1)を補足する形で、2018年、教育省によって『ジェンダー平等』に関する具体的なガイダンスが交付されました。この中で、授業や集会、その他の活動の際に、性差別につながる可能性のあるグループ分けなど、一方の性に有利になるような行為は違法であると明記されました。
具体的には、次のような内容が違法とされていす。
  • 男子はサッカー、女子はホッケーなど、性別による特定のスポーツチームの編成
  • ピンクは女子用、青は男子用などと、性別ごとに色を割り当てること
  • 男子はテキスタイルデザインと木工の授業のいずれかが選択可能なのに、女子はテキスタイルデザインしか選択肢がない場合
※1:『平等法(Equality Act 2010)』は2010年に施行された性別、人種、障害、性的志向、宗教または信条、年齢に関する差別禁止した法律。
教育現場に潜む
ジェンダー格差とステレオタイプ
今イギリスでは、幼児教育機関や初等教育機関における男性教師の割合がわずか15%と非常に少ないことが問題となっており、男性教師の増員を呼びかけています。こどもを取り巻く環境は人格形成を大きく左右するため、この大切な時期に関わる大人の男性が少ないことは、「大人の男性ロールモデル不足」につながると考えられています。
日本では、なでしこジャパンや男性カリスマ美容師などの活躍により少しイメージしづらいかもしれませんが、イギリスでは、「男子はフットボール選手」「女子は美容師」など、職業に対する先入観が存在しています。スポーツでも性別による先入観が強く、男子はフットボールやクリケット、女子はネットボール(バスケットボールに似た球技)やバレエのクラブに所属している傾向があります。さらには、中世時代から続く物語の中で、「王子様の助けを待つ哀れな少女」といった男女のキャラクターが固定化されていることも、ジェンダー・ステレオタイプ蔓延の要因としてあげられます。
このように、児童と日々接する教師のアンバランスなジェンダー比率や、男女のステレオタイプが、児童の職業に対するジェンダー差別にも繋がっている可能性は否めません。
教育現場における
ジェンダー平等への取り組み
イギリス南部の小さな島にある小学校では、「女子は冒険心がある」「男子はお世話が得意」などのメッセージが教室に貼られています。これは、女子はおとなしく、男子はお世話があまり得意ではないという一般概念に基づいた男女のステレオタイプを払拭するためのものです。
またこの学校では、男性教師が、「嬉しい」「悲しい」「愛の意味とは」など、児童たちの感情に焦点を置く授業を行ったところ、とくに男子児童に変化が現れたそう。イギリスでは「男子は感情を表に出すべきでない」というジェンダー差別につながるような昔ながらの風潮があります。男子児童が自分の思っていることをうまく言葉にできないことも多く、怒っている時に理由を聞いても「頭にきたから」としか答えられない男子児童が多かったのが、授業後は、より早く冷静さを取り戻し、怒っていた理由を自ら分析するようになったのです。
また、イギリス北部にある小学校の女性教師は、「魔法で永遠の眠りについた少女が王子のキスで目覚め、2人は結婚して幸せに暮らしました」という、よくある昔話を読んでいる時に、ハリウッドから世界に飛び火した“#MeToo”キャンペーン(※2)のことが脳裏に浮かんだそうです。この小学校は、古い炭鉱の町にあり、時代遅れな男女の役割の概念が色濃く残り、「女子の脳は、男子の脳よりも小さい」と、大多数の児童が信じている土地柄です。この教師が行った偏見への改革は、男子児童がよく遊ぶ乗り物やブロックがあるエリアに人形を置くことでした。すると、男子児童は楽しそうに人形で遊びはじめたそうです。さらに、“少女が主導権を握るような物語”を積極的にカリキュラムに盛り込みました。
それに続く、ステレオタイプを打破するための動きは、ジェンダーニュートラルな制服です。これは、男女分け隔てなくズボンやスカートの着用を可能にするケース、男女同一のユニセックスな制服を導入するケースも含みます。慈善団体Educate & Celebrateによると、イギリス国内で120の公立・私立小学校が、ジェンダーニュートラルな制服を導入しているそうです(2017年調べ)。
中学・高校でも、ジェンダー格差を埋める取り組みが始まっています。「ステレオタイプの呪縛を解き放つことで、(女生徒にも)明日のリーダーを目指して、技術と自信を取得し、無限の大志を抱いてほしい」とは、オックスフォード大学やケンブリッジ大学の合格者を輩出しているイギリス南西部の公立女子校の女性校長の弁。ここ数年、女生徒にエンジニアリングやメカニックに関する授業を奨励する動きが活発になっています。
このように、イギリスでは、男女の賃金格差という社会的問題を受け、ジェンダー平等に対する取り組みが教育現場でも広がってきています。
※2:“#MeToo”キャンペーンとは、ハリウッドの大物映画プロデューサーだったハーヴェイ・ワインスタイン氏のセクハラ問題が大きく報道され、SNSを通じてさらに世界中でセクハラ告発のムーブメントになったキャンペーン。#Me tooとは、セクハラや性暴力を受けた女性たちが連帯を示すためのハッシュタグ。

     

ハモンド綾子

グローバルママ研究所リサーチャー。日本でメディア会社勤務後、1999年渡英。ファッション/ホテル業界勤務を経て、2006年よりライター/リサーチャー/翻訳者として活動中。イギリス人の夫、バイリンガルの息子2人と4人暮らし。


グローバルママ研究所

世界33か国在住の170名以上の女性リサーチャー・ライターのネットワーク(2017年4月時点)。企業の海外におけるマーケティング活動(市場調査やプロモーション)をサポートしている。