2016.7.4

こどもの可能性を拡げる情報

子育て法がこどもの未来を左右する!?

最新の研究結果に見る“最も効果的”な子育てとは?

子育てのスタイルが、こどもの所得や学歴、幸福感、倫理観などに影響する。これは、神戸大学社会システムイノベーションセンターの西村和雄特命教授と同志社大学経済学部の八木匡教授らの研究グループが明らかにした、最新の研究結果だ。どのような子育てがこどもの将来にプラスにはたらくのか、お二人による論文『子育てのあり方と倫理観、幸福感、所得形成—日本における実証研究—』の内容をご紹介しよう。※西村和雄特命教授への過去のインタビューはこちら

“タイガー・マザー”はこどもを成功に導くか?
子育ての方法がこどもに与える影響については、以前から研究が行われてきた。最近では、エール大学の中国系アメリカ人教授エイミー・チュアが、自身も実践してきた中国式の厳格な子育て法を紹介し、その著書『タイガー・マザー』は全米でベストセラーを記録した。友だちと集まって遊んではいけない、学芸会に出てはいけない、テレビやゲームは禁止、ピアノやバイオリン以外の楽器を弾いてはならない、Aより悪い成績をとってはいけない…といった彼女の厳しい教育は、こどもの人格や自主性を尊重することを良しとしてきた欧米諸国の親や教育関係者に、少なからず衝撃を与えた。
著書の中でチュア教授は、こうした厳格で教育熱心な母親を“タイガー・マザー”と名づけ、その子育て法がこどもの成功に役立つとして問題提起をした。一方、中国系アメリカ人家庭を対象にした調査によると、こどもの学業成績や精神的な安定の面でもっとも効果があるのは「支援型」の子育てであり、「厳格型(タイガー・マザー)」ではないとした研究結果も発表されている。
最も効果的なのは、「支援型」の子育て
「厳格型」と「支援型」のいずれが効果的なのかを探るため、西村特命教授・八木教授らの研究グループでは、日本における実証研究を行った。1万人の日本人のデータから、日本人の親に多い子育てのタイプとこどもの人格形成やパフォーマンスとの関係を分析。子育てのタイプを「支援型」、「厳格型(タイガー)」、「迎合型」、「放任型」、「虐待型」、「平均型」の6つに分類し、それぞれのタイプがこどもの就業後の所得、幸福感(前向き思考や安心感)、学歴、倫理観(社会性や遵法意識など)にどのような影響を与えるかを調査したところ、いずれにおいても「支援型」が最も高い達成度や望ましい結果を示したのだ。
こどもに関心をもち、時間を共有し、自立を見守る
では、こどもに良い影響を与えるとされる支援型の子育てとは、どのようなものなのだろうか。端的に言うと、支援型子育ては「関心をもって見守る」というスタンス。一方の厳格型子育ては、「関心をもって厳しく指導する」というスタンスだ。調査では、こども時代の親との関係を尋ねた20項目の質問に回答してもらい、子育てを特徴づける6つの因子「関心」、「信頼」、「規範」、「自立」「共有時間」「叱られた経験(厳しさ)」によって6つのタイプに分類している。支援型は、「親がこどもに高い関心をもち、こどもを信頼している。親子で多くの時間を共有している。こども自身が自立している」という要素が強く、こどもの意志を尊重し、自立をサポートする姿が読み取れる。
子育てタイプ別の平均所得は、上述のグラフの通り。最も高いのが支援型で、厳格型、平均型、迎合型、放任型と続き、虐待型が最も低い。幸福感については、「前向き思考」と「安心感」の側面から調査したところ、下図のような結果となった。支援型はいずれも突出して高く、幸福感が高いことがわかる。
「厳格型の子育ては学歴形成に有効」は真か?
続いて、学歴について。下図のように、支援型の高学歴者比率が最も高く、続いて迎合型、厳格型となっている。今回の調査からは、「厳格型(タイガー)の子育ては学歴形成に有効である」という結果は得られなかった。もう一つ興味深いのが、最も低いのが放任型だという点。こどもへの関心が低く親子の関係性が希薄な放任型の子育ては、学歴形成という観点では好ましくないことがわかる。
社会性や遵法意識といった倫理観についての結果も興味深い。「遵法意識(ルールは守るべきである、など)」、「非社会性(面倒なことには関わりたくない、など)」、「扶養意識(年老いた親の面倒はこどもが見るべき、など)」、「打算的(収賄を認めるような思考傾向)」の各因子において、支援型は最も高い倫理観(遵法意識・扶養意識は高く、非社会性と打算的傾向は低い)を示した。
支援型の子育てが、こどもの“生きる力”を養う
今回の調査結果を受け、西村特命教授は、「親から信頼され、関心をもって見守られながら育った人は、所得、幸福感、学歴、倫理観がいずれも高いということが実証されました。一般的に、子育てのあり方の良し悪しというのは、親の一方的な思い込みで判断されることが多いものです。子育ての方法がこどもに与える影響についての実証的研究は、こどもをもつ親にとっては一つの判断材料になると思います」と述べる。
タイガー・マザーのような親主導の厳格型の子育てよりも、関心をもって見守る支援型の子育ての方が効果は高い。この調査結果は、子育て方法に悩む親たちには少なからずインパクトのあるものだろう。親子で時間を共有しながら信頼関係を構築し、こどもを見守りながら自立を促す。まさに「言うは易く行うは難し」だが、具体的にはどのようなことを心がければよいのだろうか。西村特命教授は、次のようにアドバイスをする。
「どんなことでも、まずはこどもにやらせてみることです。もちろん、危険があれば止めさせ、時には叱ることも必要ですが、基本的には挑戦するこどもの姿を見守りましょう。例えていえば、こどもと一緒に歩くときには、こどもを先に歩かせて、自分はそのすぐ後について行くようなもので、常に見守っていれば、危ない時には制止できます。また、こどもと勉強をするときには、まずはこどもに考えさせ、やらせてみます。そして、もし間違えたら、どうして間違いなのかを教えてあげましょう」
ちなみに、歩くときに、こどもがついてくるかをいつも気にしている親、勉強するときに、親が先に解いてみせ、似た問題をこどもに解かせる親は、厳格型とのこと。親としての自分の行動を、一度振り返ってみてはいかがだろうか。

西村 和雄

経済学者。京都大学名誉教授。神戸大学特命教授。東大卒業後,ロチェスター大大学院に学び,ダルハウジー大助教授、東京都立大助教授、京大経済研究所教授、同研究所所長、パリ大客員教授、同志社大客員教授などを歴任。専門は数理経済学,複雑系経済学で景気循環や経済変動の研究で知られる。日本経済学会会長,NPO日本経済学教育協会会長なども歴任。24年紫綬褒章。同年学士院会員。北海道出身。著作に「ミクロ経済学入門」「世界一かんたんな経済学入門」「複雑系経済学とその周辺」など。

文/笹原風花 プロフィール写真/本郷淳三