2019.2.14

WorMo’的ワークスタイル

子育てが「まちの力」で豊かになる社会へ

地域と子育ての接点をつくる

横浜市戸塚区で2012年に設立されたNPO法人「こまちぷらす」は、「子育てが『まちの力』で豊かになる社会へ」というビジョンを掲げて、親子同士が集えるカフェの運営や子育て情報提供など多彩な事業活動を展開している。理事長の森祐美子さんは、「地域の多様な人が子育てに携わり、保護者の方が負担や孤立感を感じずに豊かな子育てができるような社会をつくりたい」とビジョンを語る。こまちぷらす設立の経緯や活動内容についてお聞きした。

子育て情報と居場所がほしい
自らの切実な思いが設立の動機に
 こまちぷらすを立ち上げる前は大手自動車メーカーに勤務していたという森さんは、設立の動機について次のように語る。
「こどもを授かり育児を始めたときに、『近くに子育ての悩みを相談できる人がいない』という深い孤独を感じました。私はもともと横浜市戸塚区の出身なので、地元にそれなりに友達はいました。でも、子育てについて地元のママ・パパと情報交換をしたり、悩みを相談・共有したりしたいと思った時に、どこへ行けばいいのかわからなかったんです」
 その後森さんは、「戸塚区子育て支援拠点をつくろう」会という勉強会に参加し、地域のママたちと交流を持つことになる。この経験によって、自分が切実に求めていた子育ての情報などが実はたくさん発信されており、同じ悩みを共有できるコミュニティもたくさんあったことに気づいたという。
「情報も居場所も本当はたくさんあるのに、切実に求めている人のもとへ届いていない、と強く感じました。このギャップを埋めるために、孤独感を感じずに地域とつながりながら子育てができる環境をつくりたくて、会社を辞め、ママ友に声をかけて団体を立ち上げました。“こまちぷらす”というネーミングは、“子育てを『まちで』プラスに”というスローガンを縮めたもので、まちの力で孤独ではない子育てをしたい、という私たちの願いを表したものです」
上手に周りを頼ることが
お客さまにとってもプラスになる
 こまちぷらすでは現在、WEB上で地域の子育て情報を検索できる「地域こそだてカレンダー」などを通じた情報提供や、親子が立ち寄れる「こまちカフェ」の運営、こどもの発達障がいや不登校、介護をテーマとした勉強会や情報交換会、「ウェルカムベビープロジェクト」として企業や商店会、行政と組んで出産祝いを届けるプレゼントを実施するなどの事業を展開している。また、戸塚区役所3階にある「とつかの子育て応援 ルーム とことこ」の 情報スペースにて情報発信を担い、月間で約100件の子育て相談に対応している。
 事業内容は実に幅広いが、一貫しているのは「子育てママと社会との接点をつくる」という目的に基づいたものであるということだ。
「子育てで孤立して社会との接点が減ると、育児の担い手になりやすいお母さんの自己肯定感が下がり、子育てに対して負担感が芽生えるようになります。ですから私たちは、ママ同士のコミュニケーションはもちろん、子育て中のママが多様な世代の人と接点を持てるよう、例えば介護のテーマを含めた勉強会などを開催して、子育てに関心がなかった人にもカフェにお越しいただけるよう工夫しています」
 森さんが仕事をするうえで心がけているのは、「周りの助けを上手に借りる」ことだという。

「現在は様々な団体や企業の方と協力しながら進める事業も展開していますが、以前は自分たちの 団体だけで頑張ろうとしすぎて失敗することが多かったと感じます。でもプ ロジェクトをいくつも経験する中で、一緒に考えたり頼ったり頼られたりすることで、たくさんの知恵や思いが集まってよい結果につながることがわ かってきました」
 自分たちだけで抱え込まない姿勢は、カフェを訪れる地域のママと向き合うときにも大切だという。あるとき森さんは、とあるこどもをもつお母さんの気持ちを受け止めきれずに悩んでいた。
「そんなとき、尊敬する先輩から『どうして自分たちだけで向き合おうとするの? 自分たちだけで無理ならほかの人につないで、みんなで関わればいいじゃない』と言われてハッとしたんです。私たちは豊かな子育て環境づくりに向けて活動しているわけですから、考えてみれば自分たちだけで関わる必要性はないですよね。子育てしている人にとっても、いろいろな人と向き合うことで気持ちが楽になったり、よい情報を得られたりするかもしれない。子育て環境の充実という目的に立ち戻ったら、自分たちだけで乗り越えようとするのは思い上がりだったかも、と感じるようになりました」
地域の小さなカフェが
グローバリズムを体現する場に
 森さんはもともと、自動車メーカーで海外営業や海外調査の仕事を担い、グローバルに活躍してきた人だ。会社員時代の仕事と、地域の中で活動する現在とでは規模感が違うようにみえるが、ご自身ではどのように考えているのだろうか。
「確かにメーカー勤務の頃は、海外出張も多く、グローバルに仕事をしてきたといえるのかもしれません。でも、海外でビジネスパーソンと仕事のやりとりをしていても、話題が取引のことに限定されているせいか、文化や背景の違いをそこまで感じなかったんです。一方、こまちカフェに集うお母さんたちを拝見していると、同じ戸塚区に住んでいるママという接点はあっても、抱えている立場は本当にさまざまで、まさに異文化同士の出合いというか……。また、パートナー企業様もカフェに訪れることがあり、子育てが身近でない男性社員と地域のママが出会うと、そこでも異文化接触が起こります。私の目から見ると、このカフェにいると『ここには“グローバル”な世界がある』と強く感じるんです」
「子育てや自分たちの状況をグローバルな視点から見つめなおす機会が大事」という森さんらの思いから、こまちぷらすでは、海外からの訪問者と地域のママが話す場をつくったり、海外の子育て事情を学ぶイベントを実施するなどの活動も行っている。2019年1月には、諸外国における知的障碍者の学びを知るためのミニ講座が開催された。
「大都市のベッドタウンで、誰にも相談できずに孤独感を感じている女性は世界中にいます。例えば、そんな同じ立場にあるバンコク郊外の女性と戸塚の女性がもし出会ったら、言葉は通じなくても深いところで理解し合えるのではないでしょうか。私たちは、勉強会やトークセッションなどを通じて、子育て中の親御さんに向けて世界中のいろんな価値観との接点もつくれたらと考えています」
ライフとワークのミックスが
とても心地よい
 さて、設立から6年を経て、森さんの働き方は会社員時代とどのように変わったのだろうか。
「メーカー勤務時代もやりがいはありましたが、今はライフとワークが一体化し、自分のミッションがワークであり、ライフであるところに幸せを感じます。自分のやりたいことがそのまま人生であり、何一つ悔いなく生きている。そんなライフとワークをミックスできている充実感が、とても心地よいんです」
 こまちぷらすでは2018年から、「横展開」と銘打ち、他地域での子育てカフェ運営を支援する活動も展開している。森さんは今後の展望について、「戸塚に限らず、子育て中の親と地域が接点を持つための活動を、柔軟な形で展開・支援していきたい。私のこどもたち世代が子育てを始める頃には、地域の多様な人に見守られながら楽しく子育てができる環境が当たり前になっていてほしい」と語る。こまちぷらすのような活動が拡がり、「豊かな子育て」が全国で実現することを期待したい。

森さんの ある1日


6:00 起床、朝食の準備、ご主人のお弁当づくりなど
7:00 朝食
7:30 長女(小6)と長男(小4)、ご主人を送り出す
7:50 自分時間(思考の整理、情報収集など)
9:30 こまちカフェに出勤、社内ミーティング、パートナー企業との打ち合わせ
17:30 カフェを出る
19:00 帰宅、夕食の準備
20:00 夕食→お風呂など
23:00 就寝

こまちぷらす

「子育てが『まちの力』で豊かになる社会へ」というビジョンを掲げて、横浜市戸塚区で2012年に設立。2013年にNPO法人化。子育て親子の居場所である「こまちカフェ」の運営や、子育て情報提供事業のほか、メーカーと提携した商品開発やイベント開催、おしゃべり会、勉強会などを実施し、「豊かな子育て」を実現するための活動を幅広く展開する。

文/横堀夏代 撮影/ヤマグチイッキ