2015.10.20

WorMo’的ワークスタイル

子育てと仕事を両輪で自信につなげる 

Vol.18 経営者でも「任せること」は大切

特定社会保険労務士 菊地加奈子事務所
フェアリーランド仲町台 園長
菊地加奈子さん
大学卒業後、福利厚生施設やシニアリビングサービスを提供する企業で人事・経理を担当。退職後は、6年半の専業主婦を経て社会保険労務士試験にチャレンジ、合格し、2010年に個人事務所を開業。民間企業の労務顧問に携わり、就業規則や賃金規定の作成・見直し、人事関係の諸手続、人事制度構築など幅広い業務を担当する。特に、女性を活用する制度づくりの提案を得意分野とし、子育て世代の働く女性を対象とした講演会なども精力的に行う。2013年には、事務所と併設の保育園「フェアリーランド」を開園。小5、小2、5歳、1歳女児、2歳男児のワーキングマザー。

専業主婦からの復職当時は
熱意を見せようとして失敗も
――菊地さんは、特定社会保険労務士として活躍する一方で、保育園の経営や講演会活動もなさっています。そしてプライベートでは、5児の母ですよね。身体がいくつあっても足りないんじゃないですか?
確かに、「今が一番忙しい」という状態が何年も続いていますね。1歳になった末娘のおむつが取れたら、今度こそひと段落じゃないかと思うんですが。
――それにしても、こんなに精力的にお仕事をしている菊地さんが専業主婦だった時期があるなんて、想像がつきません。出産後は企業に再就職せず、社労士の資格を取得して個人事務所をスタートしたという経歴もユニークですね。
実を言うと、学生時代から専業主婦に憧れていて、仕事を再開したいと思ったこともなかったんです。考えが変わったのは、三女を妊娠中に、夫が勤務先でパワーハラスメントに遭ったことがきっかけでした。「もし夫が辞職したら、私が家を支えなければ」と考え、初めは民間企業への再就職を考えました。けれど、こどもたちを保育園に預ける費用や社会保険の支払いを考えると、家族を守るのはとても無理だと気づいたんです。そこで、自分で生きる力をつけようと決めて、いろいろな資格の取得を検討するところから始めました。
――資格もいろいろありますが、なぜ社労士だったんですか?
これも夫が会社でパワハラを受けたことがきっかけで、シンプルに「働きがいのある職場づくりに貢献したい」と考えたからです。普通は大手の社労法人などで経験を積んでから開業するケースが多いのですが、その時間ももどかしくて、資格を取得後いきなり開業してしまいました。
――お仕事は最初から順調でしたか?
大手社労士法人の先輩から学びながら、少しずつ仕事を増やすことができました。ただ、働いていないブランク期間が長いこともあって、初めは失敗ばかりでしたね。
――例えばどんな失敗を?
間違った方向で熱意をアピールしてしまうことがよくありました。『インフルエンザのこどもを病児保育に預けて駆けつけました』とか。でもそれって、お客さまには関係のないことじゃないですか。ある方から『そういう頑張りは期待していません』と言われ、公私混同している、とドキッとしました。
――今は、どんなスタンスでお仕事をなさっていますか?
端的に言えば、「私がママであることは配慮しなくていいですよ。ただ、時間の制約があることだけはご理解ください」という感じでしょうか。
――菊地さんとは対照的に、「とにかく私の条件を受け入れてほしい」というタイプの人もいますね。
私は講演会や企業でのヒアリングで、ワーキングマザーの方とお会いする機会も多いんですが、権利ばかり主張する人がいるのは気になります。世の中の流れはワーキングマザーが働きやすい環境づくりを後押しする方向に動いているし、権利を行使するのも当然ではあります。ただ、中小企業の場合は、リスクを冒して女性を採用する経営者も少なくありません。ですから女性自身にも、期待に応える気持ちで真摯に働いてほしいと思っています。
――「ワーキングマザーが働きやすい環境になりつつある」ということですが、具体的にはどのようなことがあるのですか?
そうですね。例えば、平成26年10月から育休中でも労働時間が80時間以下の場合、育児休業給付金が支給される(休業中の給与と給付金を合わせた額は、休業前の給与の80%が上限です)など、法制度もここ数年で柔軟に変わってきています。この制度を利用できる人は、復職後のブランクを埋めるためにも、少しずつ働けるこの制度を活用してみてもいいのではないでしょうか?
仕事が軌道に乗ったことで
自信がつき、第4子と第5子を出産
――社労士事務所だけでなく、保育園の経営も手がけようと思った理由は?
社労士事務所では、4人の女性がパートタイムのスタッフとして働いてくれています。彼女たちの希望する勤務時間だと保育園に預けるための就労条件を満たさないため、子連れ出勤を実現してもらうために保育園をつくることにしました。でも今では、こどものそばで働くすばらしさを感じてほしいという願いから続けています。もちろん私も、未就学のこども2人を預けています。
――社労士事務所と保育園の経営者という立場に立ってみて、価値観が変わったところはありますか?
まず、社労士としてお会いするどの経営者に対しても、尊敬の気持ちが芽生えました。私もスタッフを雇って初めてわかったのですが、毎月・毎時間お金が流れていくということなんですよね。経営者の方はみなこのプレッシャーにさらされているんだな、と痛感しました。私も人件費で経営が立ちゆかなくなったら…という不安から、水道光熱費も節約しなければと思い詰めたこともあります。
――どの社長さんに対しても、尊敬の気持ちは変わりませんか?
私がお目にかかる方に関してはそうですね。従業員の方にとっては理不尽にみえることもあるかもしれませんが、経営者は多くの場合、心から社員のことを考えて苦渋の決断をしているものです。例えばある社長は、妊娠中もそれまでと変わりなく力仕事をこなそうとする女性従業員を見かねて、「流産したら大変だから」と退職を勧めました。事実だけ見るとマタハラと言えるかもしれませんが、それだけでは片付けられませんよね。
――中小企業の経営者の方は、マネジメントも経理も、すべて自分で采配しなければいけない大変さもありますね。
私も初めは「何もかもできなくちゃ」と思っていました。でも、仕事が増えて手一杯だった時に、あるスタッフに他のスタッフたちのマネジメントを頼んだら、思いのほかうまく処理してくれたんです。それからは、信頼して任せるようになりました。家事も同じで、自分一人で抱え込まずに、小5と小2の娘に手伝ってもらっています。これでいいんだ、と今は思っています。
――事務所開設後の一番お忙しいときに5人目を出産されていますが、迷いはありませんでしたか?
まったくなかったです。社労士の仕事や保育園経営が軌道に乗り、少しずつ自分の足で立っているという自信がつき始めた時に、「家族を増やしたい」と今まで以上に強く感じたんです。だから5人目ができた時は、とてもうれしかったですね。
――子育てで気をつけていることはありますか?
夕食だけでも家族でとるなど、一緒に過ごす時間を持つようにしています。事務所併設の保育園が家族の拠点になっていて、みんな仕事や学校が終わったら集まってくるので、帰宅もみんな一緒です。夜の講演会などがある時はしかたないですが、家族の時間は意外に確保しやすいですよ。
――お子さんにお仕事の話はしますか?
苦労していることも含めてよく話しますね。長女は専業主婦時代の私を知っているので、「昔みたいにおやつをつくってほしい」とか「どうして夜中に起きてまでお仕事するの?」と言ってくることもあります。でも、「大変だけど、それでも仕事は楽しいんだよ」と私の姿を通して教えられたらな、と思っています。
――家族ということで思い出しましたが、菊地さん、ご主人のビールを湯せんにかけたことがあるそうですね。
菊地:ちょっと口ゲンカをしてイラッとしたので。夫はお風呂上がりのビールが1日の楽しみなんですが、その楽しみを台無しにしてやれ、と黒い気持ちが芽生えてしまって。
――すごい企みですね…。
とても驚かれて気が晴れたので、後日、またイラッとした時にもう一度。でも、2回目はあまりインパクトがなかったみたいです。びっくりしなくてつまらないから、それ以来やってませんけどね(笑)。
三女(5歳)と四女(1歳)とフェリーランド保育園にて。

菊地さんの ある1日


4:00 起床、仕事(書類作成など)
6:30 こどもたちを起こす、朝食、3人のこどものお弁当づくり
8:00 外出→経営する保育園へ
9:00

16:00
企業4件を回り、就業規則のアウトライン打ち合わせ、
職場環境の視察など(合間に車を停めてランチ)
16:00 こどもたちが保育園に集まってくる
19:00 帰宅→夕食
20:00 お風呂
22:00 就寝

文/横堀夏代 撮影/ヤマグチイッキ