2019.5.24

WorMo’的ワークスタイル

育休をきっかけに新しい人生が開けた

「男性の育休」のリアルⅣ 復職後の働き方と生活

ハウス食品株式会社に勤務する豊田陽介さんは、第3子の誕生をきっかけに1年間の育休に踏み切り、主夫として家族とじっくり向き合った。豊田さん自身と家族、職場のメンバーが過ごした1年間の軌跡を4回シリーズでお届け。最終回となる今回は、育休をきっかけに変化した豊田さん自身や一家の人生と、今後のワークライフバランスについてお聞きした。

1年間、会社とまったく接点が
ないまま復職の日を迎える
 豊田さんは2019年1月に育休を終えて復職した。オフィスに出社するのはまさに1年ぶり。復職前に上司と面談する制度自体はあるが、当時の上司である黒田英幸さんはハウス食品の直営店である「カレーパンノヒ」運営のため大阪に常駐中であり、対面で話すのが難しい状況だった。そのため、電話とメールで今後の働き方について確認が行われた。
 ただし、実はその8か月ほど前に、豊田さんと黒田さんの間にはもう一度やりとりがあったという。豊田さんはその頃の状況を苦笑混じりに話す。
「夜間授乳が落ち着いてきた3月頃から、仕事のことが気になり始めました。というか、会社から忘れられていくような、自分という存在が会社からなくなっていくような感じがして怖くなったんです。そこで黒田に、『プロジェクトの進捗はどうですか? たまには飲みにいきましょう!』とメールを送りました」
 折しも黒田さんのチームでは、ショップの開店を半年後に控えて忙しさに拍車がかかり始めた時期だった。豊田さんに仕事の相談をしたいのはやまやまだったが、あえて黒田さんは「育休に専念して欲しい」と返答したという。
「育休を1年間取ると決めたからには、全力投球してほしいと考えたからです。それに、手助けを求めず、今いるメンバーと私だけでやりきることを一つの目標としていたので、豊田さんには頼りたくない気持ちもありました。プライドのようなものだったのかもしれません」
周りの期待に沿う
アウトプットが出せない!
 1年間会社と接点をもたないまま過ごした豊田さんは、自分が休んでいる間に会社の制度や働き方のスタイルがいろいろ変わっていたことを知り、大きな戸惑いを感じた。また、仕事に対する自分自身の適応度にも不安があったという。
「新プロジェクトを担当することになったのですが、例えば企画書を書こうとしても、思ったようにアイデアやコピーが出てこなくて……。自分でも『育休で得たものを仕事に活かしたい』と意気込んでいたし、周りも成果を期待しているのに、思うようなアウトプットができていないことに、正直かなり焦りがありました」
 その頃の豊田さんは、私生活でもちょっとした壁にぶつかっていた。
「長女・次女の保育園通いが始まったのですが、『今まではパパが家で遊んでくれたのに、どうして行かなきゃならないの?』とぐずって泣くので、出かける前はちょっとしたバトルです。そして会社に来ればアウトプットは出せないし、上司の黒田さんは大阪にいるのでなかなか相談ができない。周囲に迷惑をかけながら、すき好んで育休を取った手前、抱え込んだ悩みを周りに吐露する訳にもいかなくて。気持ちの行き場がなくて、1~2か月は少ししんどい時期が続きましたね。復職後の1か月で、体重が5キロ落ちました(笑)」
 ただし、周りからはそうは見えなかったようだ。黒田さんは次のように指摘する。
「豊田さんからは戸惑いの声をよく聞きましたが、僕の目からはわからなかったですね。むしろ、新企画のためのブレストで豊田さんの発言を聞くと、1年間の育休で家事や育児に関する知見を自分の中に蓄積したんだな、と頼もしく感じました」
長野移住を決断し
一家の生活が激変
 一方、復職後の豊田家も大きな変化を体験することになる。きっかけは、育休中の夏休みに、長野県佐久穂町に一家で短期移住したことだった。
「第3子の誕生をきっかけに、当時小2の長男が反抗する場面が増えたな、と感じました。僕たちが気がつかないうちに、『お兄ちゃんでしょ』とプレッシャーをかけていたのかもしれません。そこで、長男が好きな昆虫採集を夏休みの間思いっきりやらせてあげたい、と考えて、1か月間長野県で暮らしました。移住先での生活は思いのほか心地よく、妻も僕もこどもたちも、都会であわただしく過ごすよりこちらの暮らしの方が自分たちには合っているかな、と考えるようになったんです」
 その思いは募り、豊田一家は2019年4月から本格的に長野県に移住を果たしている。幸いハウス食品では、2018年4月からテレワークが導入され、フレックス制度も始まっている。それらの制度も有効活用しながら、長野と都心との2拠点生活をおくっている。
「育休がなかったら、今とは違う人生を送っていた」と豊田さんは感慨深げに話す。
「1年間という時間でいろいろチャレンジしていく過程で、価値観がガラッと変わりました。ちょっとしたきっかけによって、違う人生が開けていくことに、面白さを感じますね」
豊田さんの考える
ワークライフバランスとは?
 豊田さんは、今後の人生について次のように語る。
「人生でこれを成し遂げたいといった壮大なビジョンが持てなくて、そのことが何か『悪いこと』かのような強迫観念に囚われ、自分探しに悩んだ時期もありました。でも今回、思い切って育休を取得し、人生がより豊かになる経験をしたことで、先々のわからないことや、自分探しにあれこれ悩むよりも、その時その時の気持ちに正直に、目の前に起こる1つ1つの縁を面白がって生きることが大事なんだと思うようになりました。言葉遊びではありますが、『一“生”懸命』ではなく、『一“笑”懸命』生きたいなと。一生に命を懸ける何かとなると重い感じがありますが、深刻に考え過ぎず、一つ一つの笑いを大事に生きる、そんなイメージを大切にしたいと思います。
この4月から、縁あって拝命した「ダイバーシティ推進」というステージで、周りに新しい風をお届けできるよう全力を尽くしながら、その先に待ち受けているであろうまだ見ぬ面白いご縁を楽しみに、これからも人生を重ねていけたらと思います。そして人生を振り返ってみたら、思いもよらないユニークなキャリアになっていた! となると良いなと思います」
 育休は、自分の人生にも周りにも影響を与える。マイナスの影響を考えて尻込みしてしまう男性も少なくないが、自分の気持ちに素直になって飛び込んでみることで、新しい世界が開けるかもしれない。制度設計を担う企業側も、育休を取りたい人が取れるような制度や雰囲気をつくることを検討してみてはいかがだろうか。

豊田さんの育休復帰後のある平日(テレワーク実施日)


6:00 起床 朝風呂、自分・長男の身支度、朝食
   長男のスクールバス乗車の見送り
   長女・次女の身支度サポート、保育園登園準備
   長女・次女保育園登園の見送り(保育園へは、妻が車で送迎)
8:00 近隣のカフェにて、テレワークで業務開始
 企画立案、書類確認、WEB会議、等
16:30 業務終了し帰宅。こどもたちと公園で遊ぶ
17:30 こどもたちとお風呂
18:30 家族そろって夕飯、食事の片づけ
こどもたちと家で遊ぶ
21:00 こども寝かしつけ・その後自由時間
23:00 就寝

ハウス食品株式会社

1913年創業の食品会社。「おいしさとやすらぎを」をキャッチフレーズに、「バーモントカレー」をはじめとするカレールーからスパイス類、スナック菓子まで、幅広いラインナップの食品製造加工、販売を手がける。育児勤務制度をはじめとする育児休業からの早期復帰支援や、男性育児休業取得促進やテレワークなどの働き方変革に取り組み、ダイバーシティ施策を推進。

文/横堀夏代 撮影/ヤマグチイッキ