2015.7.1

こどもの可能性を拡げる情報

世界から求められている「人間力」とは?

これからの日本人が身につけたい『活きる知性』

「グローバル社会」「ロボットが人間の仕事をする時代」と言われる近年。「こどもたちは、今はない仕事に就く」「様々な国の人たちと働く」と、ぼんやりとでも思い描けている人は、家庭環境を整え、家庭でできる教育を始めてほしいと語るのは、インドの会計事務所に勤務し、世界トップ企業のコンサルティングをしている石崎弘典さんだ。日本の最高学府を卒業し、成長著しいアジアの最前線で活躍し、東洋経済オンラインでも連載をしていた石崎さんに、今、急速に進むグローバル社会において、必要とされる人材、能力、そして教育について聞いてみた。

世界に遅れをとっている、日本人の生きるマインド
「僕がインドで働いている感覚でいうと、すでにインドや 中国のトップクラスの人たちに、日本人はかなわない。 その理由のひとつは、幼少期からの教育や置かれる環境の違いがあります」。
インドも中国も人口が多く、貧富の差が激しい国。全員が同じ教育は受けられないのが大前提。「インドでは、トップクラスの人たちは幼少の頃から『競争』が当たり前の中で育ち、『主体性』を持って行動し、『自分』を主張することが身についています。日本のように均一な教育を受け、みんな一緒であることが尊ばれ、平均的な能力が良いとされる世界とはまったく違うんです」。もちろん、協調性を持ち、いろんな意見を聞きながら組織をまとめる力を育んでいるなど、ほかの国にはない日本教育の素晴らしい面があることも認めたうえで、石崎さんは「このままでは世界で日本人が生き残れない」と、現在の日本人の教育の在り方に警鐘を鳴らしている。
「それは世界トップクラス、優等生の話。自分のこどもは、世界で活躍しなくても、日本で“普通”に暮らしていければ……」と考えている保護者たちも他人事ではないとも。すでにアジアから優秀な人材が日本に入ってきており、職場に外国人がいる、そのうち学校でも様々な国籍の友人がたくさんできるようになる、そして、就職活動も外国人と一緒にやっていくことが当たり前になっていくはず。グローバル社会の波は、世界の流れであり、日本人だけに通じる日本の常識が通用しなくなるのだ。「日本にいても、海外にいても、様々な国籍の人たちと一緒に働くことが“普通”になっていくでしょう。そのとき、企業や社会の中で通用するトップ1%の日本人を育てるためにも、この不確定な時代を生き抜くためにも、早い段階で教育を変え、日本人のマインドセットを変えていく必要があります。とにかく、インドも中国も、激しい競争の中で自分を“生かす術”を磨きながら育っています。そういった人たちと対等に働いていく、暮らしていくためのマインドセットが足りないんです」。
「日本経済が茹でガエルにならないか心配なんです。少しずつ悪くなって気づいたときには助からない」と石崎さん。
世界で活躍するマインドは挫折とともに養ってきた
26 歳でインドの会計事務所に飛び込み、いきなり大きなプロジェクトを任され、企業のトップの人たちにプレゼンをするなど、世界を舞台に自分のバリューをきちんと出し続けている石崎さん。彼の経歴を見れば、日本のエリート層であることは一目瞭然。でも、いくつかの挫折があり、その経験こそが「世界を舞台に結果を出せるマインドセット」に繋がっているそうだ。
「僕は小学校から筑波付属小学校に通っていたので、高校卒業まではエスカレーター式にそこに通うと思っていました。それが、9割の生徒は合格するにもかかわらず、成績不振で高校に進学できなかった。自分でも驚きましたが、それ以上に親が学校からの通知を見て泣いている姿を見て、本当に辛かった……。とにかく数ヶ月しかない中で、高校受験の勉強を必死になってやりました。1日14時間ぐらい勉強した記憶があります」。
猛勉強の末、無事に高校に合格できたものの、この挫折から再起するには、少し時間がかかり、当時の自分は「引っ込み思案になっていた」と話す。「筑波時代の友人には会いたくなかったりして(苦笑)。2年間ぐらいは、人間関係などいろんなことがうまくいかなかった気がします」。そんな彼を再起させたのは、筑波大学附属でなくても東大に行けるはず!見返したい!と勉強しはじめたことでした。そして、同じ目標を持った予備校仲間と“競争”しながら育んだ人間関係と、持ち前の“のめり込む力”だったという。
特別な高等教育よりも幼児期の関わり方が大切
筑波大学付属に通い、東大卒と聞くと、勉強三昧のこども時代を想像してしまうが、小中学校ではFC東京に所属し、サッカーの世界で真剣に戦い、音楽にのめり込んでいた大学時代もある。「サッカーも音楽も、最初は母がすすめてくれたコトでしたね。そして、どんどんのめり込んでいく中で、いつも父が応援してくれました」。一見、グローバル社会で活躍することには関係ないと思えるサッカーと音楽。でも、このふたつを幼少期から習い、好きで続けてきたことが、彼のマインドセットに繋がっているという。
「サッカーも音楽も、結局は一流になれませんでした。ただ、どちらも、とにかく試行錯誤しながら、真剣にやりました。家に帰ってからも遅い時間までボールを蹴っていましたし、音楽も喉に負荷がかかり歌に良くないからと周囲が飲み会に明け暮れる中で禁酒したりもしていました。『やるなら、とことんやる』と考えるのは幼い頃からです」。友達が入っている近所のクラブではなく、FC東京で自分より上手い選手に混ざって切磋琢磨する。音楽では大学在学中に休学して天才たちが集まるパリに留学。真剣に向き合い、CDデビューするまでになった。これらの経験から世界に通用する『飛び込む力』と『のめり込む力』が育まれたのでは? と自身を分析している。「高校時代、開成や麻布など受験勉強においては自分がとても叶わないと思っていた最進学校の友人がたくさん出来て、一緒に目標に向かって頑張り合格に漕ぎつけられたのも、これら2つの力が働いたからでは」とも話している。
「運動、音楽、勉強と、真剣に向き合い、競争していく中で自信が持てるようになっていきました。しかし、きっかけを与えてくれたのは母で、父も毎度温かく見守りながら応援をしてくれ、うまいコンビネーションが働いていたのかもしれません」。答えのある問題を解くための勉強ではなく、生きていく基礎をつくる教育は、家庭での環境設定が大きく左右するのかもしれない。「グローバル社会を生きる人間を育むために、学校や外の環境を利用できれば良いのですが、それだけでなく家庭で整えていくことが、とても大切なんです」。
演奏活動ではないが、横浜シンフォニエッタ(オーケストラ)の海外事業アドバイザー等、芸術と社会をつなぐエージェントとして今でも音楽に関わリ続けている。
親子一緒に新たな経験を、楽しみ、人生を豊かに。
「とくに今のお父さん、お母さんたちには、こどもが『のめり込める』ことを見つけてあげてほしい。そしてそこに『飛び込む』ことを後押ししてあげて欲しい。それは勉強と関係ないことでも構いません。そして、できれば早い段階で国際経験を積ませてほしいです。一定期間を海外で暮らす経験をすると、多様性を自然と身につけられます。そこで『のめり込む力』があれば、どこへ行っても自分の意見を持ち、自分の価値をつくっていける。その中で、『飛び込む力』も更に養われていき、常に挑戦していく好奇心が生まれてくるのだと感じます。そうして、これまでのエリート像とはまったく異なった、世界に通用する力が育まれると思います」と力説する石崎さん。もちろん、いざ行動するとなれば、保護者自身がマインドを変え、多様性を身につけていくことが必要。でも、これらは大人になっても育めるものだと話してくれた。
「親子共同で参画すればいいんです。自分自身が、今の世の中を生きることを楽しみ、のめり込んでいくことです」。そして、親自身がクリエイティブであってほしいとも。「多面的に物事を見て、多様な価値観を知り、自分の意見を持つことは、答えのあるドリルを解いているのとは違います。保護者も一緒に“どう思う?”“どうしてそう思うの?”と問いかけ、自分自身も考えてコミュニケーションをしていく。こどもに何かを教えるのではなく、一緒に学んでいくことは、大人の生活もリッチにしてくれると思います」。
「どこにでも入っていって自分の価値がつくれる人がグローバルな人だと思う」と石崎さん。
石崎氏の話を集約すると、グローバル化していく社会の中で、幼少期から必要となるのが、「競争することに慣れること」「何かにのめり込み、専門性を磨くこと」「多様な価値観を認めていけること」の3つに行き着く。「海外で暮らす経験ができれば、身につくことが本当に多いでしょう。ただ、誰もが海外に飛び出せるわけではない。今、日本にいながら、こういった教育が受けられる場を生成していくことが肝になってくるかと思っています。しかも、親子一緒に学ぶことが重要だと思います。こどもに最も影響を与える人間は間違いなく保護者ですからね」。
ただ漠然と世界の変化を感じて不安に思うのではなく、「自分自身の人生も楽しもう!」といった気持ちで、あらゆる経験をこどもと一緒に、家族全員で積み重ねていくことが、グローバル社会を生きるこどもたちに最も必要な教育になりそうだ。

石崎 弘典

東京大学文学部フランス語フランス文学専修卒業、米国公認会計士。 在学中は休学して、パリ大学ソルボンヌに留学、 音楽を中心にフランス文化を学ぶ。 現在は、インドの大手会計事務所に勤務し、日系ほか外資企業のインド市場進出支援を、税 務・法務・財務の観点から行い、2014年度西インドの日本政府系機関の専属アドバイザーも務める。インドビジネスに関する知識を活かし、メガバンクなど(みずほ、政策投資銀行)が発行するビジネス ジャーナルへの寄稿、また政府系機関 (JETRO)や外資系銀行(HSBC)などが主催する セミナーへもスピーカーとして登壇している。東洋経済オンラインにて「世界の募集要項」を連載。

文/坂本真理 撮影/ヤマグチイッキ