2015.1.30

こどもの可能性を拡げる情報

山内教授に聞く『21世紀型スキル』と教育

安定した世界が変化し始めた21世紀を生きるスキル

「2011年にアメリカの小学校に入学したこどもたちの65%は、今は存在していない職業に就くだろう」。米デューク大学の研究者、キャシー・デビッドソン氏がNYタイムズのインタビューで語った予測。日本でも“働き方”への興味関心が高まり、これまでとは違う時代が訪れる足音を感じている大人も多い。子育てをしている家庭であれば、こどもの将来のためになる教育を…と、頭を日々悩ませているかもしれない。今回は東京大学大学院情報学環教育部の山内祐平教授に『21世紀型スキル』を視野に入れた、未来を生きるこどもたちの教育について話を伺ってきた。

大人自らが自律して学び続ける姿を見せるべき
「今という時代は、近代化からポストモダンへの過渡期。教育も仕事も、遠くない将来、確実に今までとは違う型へ変わっていきます。この変化を僕はポジティブにとらえたい。新しい何かを生み出せるチャンスがあるんです」と話してくれたのは、東京大学大学院情報環境学の山内祐平教授だ。変化する時代の足音をヒシヒシと感じながら、21世紀を生きるこどもたちの教育に不安を抱える親世代も多いはず。ただ、漠然と変化を待つだけでなく、できれば、今から出来ることを何か親としてあげたい……と考えるのは当然だ。
「まずは大人が意識をすることが何よりも大事です。これから先は変化が激しく、この100年ぐらい続いた学校教育や終身雇用の形が大きく変わる時代に向けて、自分自身が生きる姿勢を変えていくことです。こどもは、その姿を見て感じ、背中を見て成長していきます」。
たとえば「自律して学び続ける」ことは、誰でも必要になるという。「学校教育を終えたあと、その後は会社で教育し、世の中を知って行く時代は終わっています。今は社会に出たあとも、自律的に学び続け、新しいことを習得し続ける人材を社会も求めているはずです」。また、大人がこどもにすべてを教えなければならないといった常識も一度、脇に置いて考える必要がありそう。ITなどの環境の変化、求められるスキルの変化がある以上、大人もこどもと一緒に学ぶことも増えていくからだ。
「『21世紀型スキル』と言われるものは、今の学校教育と企業研修だけでは身につかないものがほとんどです。そのため、大人も『21世紀型スキル』が身についている……とは言えない。大人もこれから学んで、身につけていかなければ、社会の変化に付いていけなくなります。育児を考えるのであれば、まず自身が、意識して学び続けることが、とても大事だと思います」。
近い将来訪れる世界に必要とされるスキルとは?
『21世紀型スキル』とは、どんなスキルなのだろうか? 「従来型の教育に加えて、①思考の方法、②仕事の方法、③仕事の道具、④世界で暮らすため技術、が必要になるというのが世界の共通認識です」。これらは近い将来を見据え、『ATC21S』という国際組織が定義しているもの。『ATC21S』とは、アメリカやオーストラリアなど6カ国の政府と大学、産業界が協力して活動している団体。新しいスキルの習得は、日本だけでなく先進国すべてがぶち当たる問題なのだ。それぞれ、どんなスキルなのか具体的に見てみよう。
最初の①思考の方法は、「新しい価値を創造する、困難な状況での問題解決能力、意思決定能力のことです。知的生産を行うために必要な技能になります。」この中には“自律的に学び続ける”というスキルも含まれている。
②仕事の方法については「組織で働く大人は身につけている人が多い」と話す。母国語・外国語でコミュニケーションをとり、チームを束ねて目標を達成するといった恊働のスキル。
③仕事の道具とは、情報通信技術に関する知識や能力のこと。「現在でも、情報通信技術を使わずに仕事は出来ません。これから先も変化は激しい分野です。技術やメディアを知り、操作できるリテラシーを持ち情報にアクセスする能力。そして、情報に溺れないように、その価値を選んで使える能力まで含まれています」。
④世界で暮らすための技術は多様な国々文化を尊重して、ともに暮らしていく能力も含まれている。「その国々の文化があり、生活があることを知り、共生し、地域の中で役割を果たしていくスキルになります」。
「この4つのスキルは、大人でもすべてを習得しているという人はかなり少ないはず。だからこそ、これから先は大人が率先して学ぶ姿勢が必要なんです」と、まずはこどもより親の意識改革が必要と、山内教授は訴える。
『物事に対する『態度』」が身につくのが7歳まで
 
「とはいえ、家庭ですべてを学ばせるのは非常に難しい」とも話す山内先生は、できることを考えながら子育てすることだけでも違いが出てくるという。たとえば、“自律的に学び続ける”は、ICT技術や語学を含め、親世代も学び続ける必要があるもの。その「姿勢」を見せることで、こどもたちは親の背中を見て学ぶ。また、深く考える癖をつけるためには、親自身がテレビを見ていても「これはどうなっているんだろ?」とか「どうしてだろう?」といった疑問を持ち、思考しながら、こどもに語りかけ、共有することなどは、家庭の中でも可能だろう。
「外国語で何かを見る、本を読む姿を見て育てば、こどもも真似ていきます。あとは、家庭でやれない部分は、NPOなどが開催している学習支援を利用してもいいと思いますよ。プログラミングのワークショップなど、こどもが興味を持つようならば、受けさせたらいいと思います」。
親も、再度大学に通うなど、学びの場に行くことは難しくても、今は『Moocs』など、ネット上で大学レベルの授業を学べる仕組みも多くある。海外の授業をとることだって可能な時代。「学ぶための便利なサービスは、どんどん生まれています。あとは、それを知り、行動するか、しないかだけなんです」。
ただ、これだけ幅広い、新しいスキルが必要となると、いったいどこから手をつけていいのか……と気持ちも重くなっていく。「動きが速く、先が見通せない時代に突入し、親も不安に思う気持ちは当然です。ただ、先が見通せない中で、あれもこれも先行投資して学ばせるのも危険。まずは生活、家庭の中でできることをやっていくしかないと思います」
また、年齢ごとに学ぶことも変わってくるから、将来に向けた貯蓄も必要だとも。「十代後半あたりで留学経験を検討したほうがいいでしょう。どの国でもいいから、世界に出て生活をすると、日本や自分を相対化することができますから」。年齢に合った学習を考えると、幼少期に培ったものでずっと、その子の特性として残ることがわかっているのが『態度』なのだとか。
「粘り強く頑張る、諦めないとか、人目を気にするなどの『態度』ですね。知識的なものは上書きされるので差がなくなるのですが、幼少期の『態度』は大人になっても残るのです」。この『態度』こそ、新しい知識やスキルを何歳になっても習得していく土台になる。それを築くのが7歳ぐらいまでの幼少期なのだとか。
時代の変化に慌てず、こどもの好奇心を引き出そう
「7歳までの幼少期にとくに大事なのが、やり込んだ体験や感覚、人と一緒に頑張れた成功体験や達成感をこの時期にたくさん経験させてあげることです」。高度なものではなくても、こどもが興味を持ち、コミットしていく感覚を身につけることが重要。最初から難しい教材を与えたり、この子には無理と決めつけたりせず、親はこどもの様子をよく観察しすることだ。「何に興味があり、何をおもしろがっているのか? それに合わせて、たくさんの成功体験を積ませてください」
また、失敗も成功に持ち込む螺旋を描いてあげてほしいとも。「失敗しても、そこで終わらせないであげてください。何度も挑戦して成功した体験があると「やればできる」といった自尊感情や、困難から立ち直る姿勢も身につきます」。
最初にお話いただいた『21世紀型スキル』のために幼少期にひとつ身につけさせたいことをあげてもらったら「好奇心を持つこと」と返ってきた。
「これをやっておけば間違いなく、『21世紀型スキル』が身につくというものはないんですね。でも、好奇心が持てないと、いろんな活動に繋がっていかない。経験を引っ張っているのが好奇心なので、多様な活動を用意してあげて、こどもが反応したところをベースに好奇心の枝を伸ばしてあげてほしいです」
興味があるものは、何かしらあるはず。いろいろ環境を整えているつもりでも、親目線で好ましくない物は与えていなかったりしないだろうか。「IT機器なども、変に怖がって触らせない方もいますよね。もちろん段階はありますが、ただ悪いものと決めるけることはありません」。たとえば、1歳なら写真を家族と一緒に見たり、2歳になったらひとりでインタラクティブな絵本を読んだり、親子で絵本をつくるといったサービスはこどもの可能性を伸ばし、探求心を育む道具なのだ。
「もちろん、こどもは寝ている時間が長いから、起きている時間の中でIT機器に触れる時間とのバランスをとることが必要ですね。でも、過剰に怖がる必要もありません。本を読むこどもを見て、メディア漬けだ! という大人はいませんよね。今はスマートフォンやタブレットなども、教育道具のひとつなんです」。プログラミングにハマっているなら、1日根尽きるまでやってみることも経験のひとつ。
「時代が変わるから、教育も変えなければいけない。従来型の教育はナンセンスといわれがちです。でも、『21世紀型スキル』とは、従来型の教育ができていなければ、身につけることが難しいスキルばかりです。詰め込み型の教育を否定する方もいますが、頭の中にストックがなければ、引き出すこともできないですよね。大切なのは、従来型教育ができた先に『21世紀型スキル』があり、今は、さらに高度なスキルを求められる時代に突入していると認識することです」。
だからこそ、はやり親が自ら『21世紀型スキル』の習得を意識して生活することが重要というわけだ。そして、こどもに向けては、従来の育児をベースに、親の姿を見せてあげること。「それだけで、十分にこどもは感じ取って、その時代の空気の中で学び、成長していくと思います」
 

山内 祐平

東京大学大学院 情報学環 教授。1967年、愛媛県生まれ。大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程中退、大阪大学助手、茨城大学講師、助教授を経て東京大学大学院情報学環准教授 2014年から教授。研究テーマ 「学習環境のイノベーション」。著書に「デジタル教材の教育学」(編著、東京大学出版会)、「学びの空間が大学を変える」(共著、ボイックス)、「デジタル社会のリテラシー」(岩波書店)、「『未来の学び』をデザインする―空間・活動・共同体] (東京大学出版会)など。

文/坂本真理 撮影/ヤマグチイッキ