2014.1.8

こどもの可能性を拡げる情報

創作活動をする場と時間を生み続ける

一度も同じプログラムを行わない16年間の軌跡


「そろそろ、工作をさせなければ……」「これぐらいの物は作れないと……」など、親になると、急に創作活動と発育を結び付け、やらなければ……と思ってしまいがち。でも実は、環境ときっかけを与えるだけで、こどもたちはイキイキとその場と時間を過ごしている。16年もの間、こどもたちと一緒にライブを育んできたアーティスト、山添joseph勇さんだからこそ知っている、創作活動において忘れてはいけない、いくつかのポイントを伺ってみた。

完成させることではなく、その場、時間を大切に。
「今日は輪ゴムを使おうと思っています」。そういいながら、緑の輪ゴム、茶色の輪ゴム……大小さまざまな輪ゴムが入ったケースを見せてくれた深沢アート研究所の山添先生。彼がこどもと一緒に創作活動を行う場をつくりはじめたのは16年前。 「16年間、一度として同じプログラムを行ったことがないんですよね。同じことをしても、僕がつまらないじゃないですか(笑)」と、まるでこどもたちと一緒にあそんでいるかのように楽しんでいる。

「教えているといえば教えていますし、先生といえば先生です……ね。ただ、今日はコレをつくりましょうといった、完成させることを目的にしていないんです。あくまでも、ここにこどもたちが来て、僕がいて、さぁ、今日は何ができるかな? という感覚を大事にしています」。大人はついつい、自分が想定したストーリーや枠、完成型にこどもを近づけようとしてしまいがち。コレが出来たら終わり、ココまでつくれたらすごい、といった評価を創作活動にもしてしまう。

「こどもがいて、なにかつくろうしたり、ひらめいたりしている。僕は、その時間をつくっているときが居心地がいいんです。僕自身も毎回、ライブをしている感覚なんですよね」。
こどもたちはいつもいい意味で裏切ってくれる
二度と同じプログラムはやらない。深沢アート研究所で実施されたプログラムは軽く300種類は越えている。まず、大人なら誰でも、それだけのプログラムを思いつく発想の豊かさに驚かされる。

「そうですかね?」と、ヤクルトの空き容器、お弁当用のしょうゆ入れ、紙や封筒……びっしりと創作活動に使う素材と道具で埋められた棚を眺めて、ポンっと机の上に「がびょう」が入った透明のケースを置いてみせる山添さん。 「こうやって、がびょうを取りだすでしょ。そこから、僕のライブはスタートしているんですよ。これを使ったストーリーが湧いてきます」と、現場に長くいるからこそわかる感覚。でも、完成型を求めていないライブだけに、自分が思い描いたストーリー通りにすすまないことばかりとも。

「いや、本当にアレ? の連続です(笑)。こどもはこうするだろうな、とか、こうなったら面白いなって考えているんですけどね。いくつストーリーを思いついても、思った通りにはすすまないんですね、こどもと一緒に創作活動するって。それが面白いんです」。実際に、自分が描いていた“こうなったら面白い”を、まったく裏切られ、凹んでしまうこともあったそう。もしかして、多くの親は、こどもに完成型を求めてしまうから、「うちの子はダメかも」とか「創作活動をしないと!」など、気持ちが焦ったり、怒ったりしてしまうのかもしれない。

「でもね、それでいいんですよ。こどもたちがそこにいて、楽しんでつくって、いろんなことをひらめいている。しかも、同じ空間にいるこどもたちが影響し合っている。その空間、時間がいいんですから(笑)」。
こどもたちのライブの様子を身振り、手振りを交え話す山添氏。こどもたちの生き生きとした様子が伝わってくる。
 
大事なのは“環境”と“きっかけ”づくり
こどもが楽しく、なにかを考え、手を動かし、創作活動していること。そのことに意味があり、それがすべてと語る山添さん。 「僕は、創作活動をする“環境”と“きっかけ”をつくっているんですね」と話すが、実はこどもの様子をよく観察し、その場、その場で臨機応変に環境設定を行っているのが伺える。

「ひとりひとりもそうですけれど、全体の空気みたいなものもよく観察していますね。ひとりの子がなにかをしはじめたとき、いい広がりになるのか? それとも引っ張られてしまう子が増えてしまうのか? とか、その状況によって、はじめた子にストップを促したり、いい広がりに繋げる“なにか”を投げかけたり。そんなことは、よーくしています」。

さらに、たとえばホチキスを初めて使う子がいる教室であれば、長細く切った紙を置いておく。すると「ホチキスを使う練習をしましょう」と声をかけなくても、自然と紙をホチキスで留め出すそう。「まずはこうしよう」「次はこれをしよう」と、指示を出すのではなく、自然とこどもがそれをしたくなる“環境”をあらかじめ用意してあげておくのだという。
深沢アート研究所には、様々な素材や道具がある。
たくさんの輪ゴムで自由につくるこどもたち。
 
学校では生まれないひらめきを生む場所
「ただ、家庭や学校でも、こういった場が必要か? と聞かれると、それはいらないのかもしれないと思ったりもします。普通は目標があって、目的に向かって完成させていく。一つ一つクリアすることも大切ですからね。完成させなくてもいいというのは、深沢アート研究所のような場所でしか出来ない経験だからいいのかな、と」。
こどもたちは、大人には想像できないような創作活動をしたり、ひらめきを見せたりする。中には、思わぬ“できた!”に出会うことも。ただ、目的を持たせず、夢中になることをよいとする場と、目的を達成させる場の両方があって、バランスが取れるのかもしれない。
「この前、輪ゴムをグングン繋ぎ合わせたら、筋肉のようになった子がいたんですよ。ただ夢中になっていたら“できた!”んですね(笑)。 それは本当に僕も凄いな~と思いましたし、出来ちゃったねって声をかけましたよ。その“できた!”は目的やお題をクリアしたのではなくて、なにかができた瞬間なんです」
親からみると、目的も目標もなく、目の前のことに夢中になるのは、不思議なことかもしれない。でも、実はそういう時間からしか生まれない、大事なことを育む時間も必要なのだ。
WorMo’では、深沢アート研究所のレシピをたくさん公開しています。さらに、10日から深沢アート研究所の新しいレシピも続々公開予定!実践の中から生まれたレシピを是非ご家庭で体験してください。

山添joseph勇

東京造形大学美術学科卒。アーティストのカブとアートユニット「深沢アート研究所」設立(2003~)NHK教育「つくってあそぼ」造形スタッフ(~2011)ハンマーヘッドスタジオ「新・港区」(横浜)入居中 アートを基軸としたこども造形ワークショップの実施・企画・プログラム制作・普及と、現代美術の作品制作を活動とする。 <著作・展示等> ヒラメキット「ころころコース世界〇〇旅行へん」/キッズクリエイティブ研究所「造形プログラム」制作/食と現代美術Ⅰ〜Ⅳ など。

  文/坂本真理 撮影/石河正武