2018.8.9

こどもの可能性を拡げる情報

サス学で持続可能な未来を創造する力を育む

「ネクスファ」が実践する対話を重視した探求型学習

社会が急速に変化するなか、現代のこどもたちはこれまで以上に多様で答えのない世界と対峙することが予想される。これからの時代に求められる生きる力、他者と協力・協働してサステナブル(持続可能)な未来を創造する力を育むために生まれた探求型学習が、“サス学(サステナビリティ学習)”だ。“サス学”を開発・実践する地域の学び舎「ネクスファ」(千葉県柏市)を訪れ、副代表の辻義和さんにお話を伺った。

学童保育と学習塾が一体になった
地域に根づく「第3の居場所・学び舎」
ファシリテーター:「食についての情報を伝えることも大事だね。それに加えて何が必要だと思う?」
こども:「僕たちがどう考えたかを発表する」
ファシリテーター:「いいね。この発表の目的はなんだろう? 情報や意見を伝えること?」
こども:「うーん、発表を聞く人に食の問題を知ってもらう。そして、意識や行動を変えてもらうこと」
ファシリテーター:「そうだよね。じゃあ、どうすればいいか考えてみよう」
この日の“サス学”は、小学4・5年生の男子6名のグループ。「食るを知る(たるをしる)」をテーマに、食の問題について取り組む。メンバーの一人、学5年生の男の子は、「“サス学”でいろんなことを知ったり話し合ったりするのが楽しい。今回のテーマでは、日本の食料自給率の低さやゴミ(食料廃棄量)の多さに驚いた」と話す。
千葉県・柏市にある「ネクスファ」は、学童保育と学習塾が一体になった地域の学び舎だ。コンセプトは、家でも学校でもない「第3の居場所・学び舎」。学童には小学1年生から6年生まで、塾には小学4年生から中学3年生までのこどもたちが通う。
設立は2012年。千葉県柏市、東京大学高齢社会総合研究機構、UR都市機構の三者による「シニアの生きがい就労プロジェクト」の参画施設として創設され、現在も約30名のシニアがこどもたちの送迎や見守り、英語やロボット教室の講師などとして活躍している。また、ネクスファは地域に根ざす学び舎であることを主旨としており、地域住民や地元企業、高校生や大学生、市民団体など多様な地域コミュニティのサポートを受けて運営されている。
「“ネクスト+フィロソフィー”、次世代に向けた哲学的試みをする場という意味でネクスファと名づけました。学童は興味関心のタネを見つける場、塾は偏差値にとらわれずに学ぶ楽しさを感じる場と位置づけ、多様で多世代の人々と交じり合い学び合い、ワクワクできる場であることを目指しています」(辻さん)。
サステナブルな未来を創るため、
“未来につながる社会をつくり出す力”を育てる
「サス学」は2012年より、ネクスファの塾部門でスタート。「サステナブル(持続可能)な未来を創る」をビジョンに掲げ、「こどもたちの“未来につながる社会をつくり出す力”を育てる」をミッションに定めている。ネクスファ塾に通うこどもたちの約7割が受講し、なかには「サス学」のみを受講するこどももいる。
「あらゆる社会課題は、みんなで考えて解決していかなければならない問題です。そして、考えて意見を出し合うためには、基礎となる知識を身につけることも必要です。そこで『サス学』では、幅広い知識を学ぶ、課題について考える、考えたことや発想をみんなに伝える、ということを通して、未来への責任感、知恵と実行力、チャレンジ精神、協力・協働することの大切さといった、“未来につながる社会をつくり出す力”を磨くことを目指しています」(辻さん)。
「サス学」の特徴は、大きく3つある。
「サス学」らしんばん:さまざまな社会課題を構成する多様なモノゴトを俯瞰する
“ときほぐし(分解)”と“あみこみ(再構築)”:らしんばんを活用してテーマを細かく分解した後、アイデアを出しながら再構築し、本質的なつながりをつかむ
学びのサイクル:インプットとアウトプットをくり返しながら能動的に学びを深める
「サス学でもっとも重視しているのが、“つながり”を理解すること。“らしんばん”や“ときほぐし(分解)・あみこみ(再構築)”を通して、あらゆる物事が複雑につながりあっているという世界のあり方を学んでほしい」と辻さんはいう。
現在は1学期に1テーマを扱い、前半はインプット、後半はフィールドワークを交えながらのアウトプットを中心にカリキュラムが組まれ、学期の最後には保護者らに向けた発表会を行う。春・夏・冬休みに行われる特別プログラムも加えると、これまでに扱ってきたテーマは50以上にのぼる。
「SDGs (Sustinable Development Goals=持続可能な開発目標)」、「いのvation!(いのち×イノベーション)」、「未来のロボット!!」、「マグロの“なぞ”をときあかせ!」、「ペンギンから学ぶ地球温暖化」、「ゴジラがまちにやってきた!そのとき、キミはどうする?」、「もしも、トイレがなくなったら??トイレが人類を守る、そのヒミツとは!?」、「いきものを“まねっこ”して発明しよう!!〜生物たちのスーパー技術〜」、「宇宙のヒミツ〜宇宙食を食べよう!〜」、「大理科実験で“火山”をつくろう!&火山のサステナブルな秘密とは?」…と、タイトルからもそのバリエーションの豊富さがわかる。
また、サス学のテーマは、こどもたちの疑問から生まれることもある。前述の「マグロの“なぞ”をときあかせ!」や「ペンギンから学ぶ地球温暖化」などは、こどもたち自身が見たニュースや、遊びに行った水族館で感じた疑問から生まれたテーマだ。
互いの意見を認め合い、
合意形成しながら協働する
今年度1学期に取り組んでいるのが、冒頭で紹介した身近な食に対する価値観を形成することを目標としたプログラム「食るを知る(たるをしる)」だ。前半では、各自の食に対する意識を共有したうえで、食料自給率、フードマイレージ、食料廃棄、貧困・飢餓、フェアトレード、未来の食、地産地消…など、日本や世界における食の課題を広く学ぶ。そして後半では、学んだことを人に伝える(食るを知らせる)ためのアウトプットに取り組む。
「テーマもアウトプットの手法も、スタッフ側がある程度設定することもあれば、こどもたちの意見で決めることもあります。今回は、学んだことを知らせるための媒体や手法は限定せず、こどもたち自身が考えて決めました」(辻さん)。
取材当日の「サス学」クラスの男子チームが選んだのは、動画を撮影して発表会で流す、という方法だ。この日は発表会本番まで残すところあと2回という時期だったが、動画の構成や筋書きも未定という状況。しかし焦る様子のないこどもたちに向けて、辻さんは「これについてはどう思う?」「これは誰がやるの?」と問いかけ、プロジェクトを前に進める手助けをする。
動画撮影用の台本。フードマイレージについての説明。
食料自給率、フードマイレージなど、今まで学んできた資料や写真。
「私たち大人の役割は、こどもたちの持っているものを引き出すファシリテーションです。ですから、できるだけ口は出さないようにしています。小学生男子だけのグループではなかなか進まないこともありますが(笑)」(辻さん)。
こどもたちから出てきた意見やアイデアは絶対に否定しない、こどもたちの発言を途中で止めない、というのが「サス学」のファシリテーションの鉄則だ。カリキュラムはあるが、こどもたちのリアクションで流れが変わることも頻繁にある。思わぬ反応や意見・アイデアが出てきて、大人の方が驚かされることも多いという。
「サス学」では、インプットでもアウトプットでもグループで意見を出し合いながら理解や思考を深めていくが、対話だけでなくさまざまな形式を取り入れている。
「こどもたちにはそれぞれ得手不得手があります。話すのがうまい子もいれば、文字で表すのが得意な子も、絵で表現するのが得意な子もいます。ですので、さまざまな形式を取り入れて、個性が発揮できる場づくりを心がけています。また、メンバー内には学力差や理解のスピード差があります。一部のメンバーだけでなく全員が理解し納得したうえで、つまり合意形成したうえで物事を進めるよう伝えています」(辻さん)。
背景に何がありどうつながっているか、
物事を多面的に捉えることが大事
家庭でも「サス学」的な学びを実践することは可能なのだろうか。辻さんにアドバイスをいただいた。
「ニュースを見て、社会で起こっていることについて家族で話し合うことはとても大事ですが、そのときの姿勢に注意してください。ニュースの報道をそのまま受け止めてしまっていないでしょうか。良いか悪いか、どちらが正しくてどちらが間違っているのかということは、視点を変えれば変わってきます。このニュースの背景には何があるのか、どのような問題とつながっているのかを考えることで、多面的な視野の形成につながると思います」(辻さん)。
ネクスファを起点に始まった「サス学」だが、2014年からは三井物産(株)と連携し、「『サス学』アカデミー」をスタート。夏休みの5日間、小学生に向けたプログラムを提供している。また、蔦屋書店を中核とした商業施設「柏の葉T-SITE」(千葉県柏市)でも不定期でイベントを開催。毎回多くの小学生が参加している。さらに、「サス学」のノウハウを他の学習塾や教室に導入するプロジェクトも始動している。来年3月からは、指導員の養成・認定コースなどを実施する予定だ。
人工知能をはじめさまざまな技術がさらに発展するであろうこれからの時代に、こどもたちにどんな力を身につけてほしいのか。偏差値の高い学力、英語力、またはプログラミングの知識やスキルなどももちろんだが、他者と協力・協働してサステナブル(持続可能)な未来を創造する力も、これからの社会を生き抜くために必要な力であることは間違いないのではないだろうか。

ネクスファ

2013年3月、千葉県柏市に地域の第3の居場所・学び舎として誕生した、小学1~6年生向けの“学童保育”と、小学3~中学3年生向けの“学習塾”。こどもたちがもつ無限の可能性と“ありのままの姿”を大切に、個に寄り添って成長をサポート。将来こどもたちが自分自身の力で生きていくための知恵や主体性を育むための、居場所であり学び舎でもある。

文/笹原風花 撮影/荒川潤