2018.7.9

こどもの可能性を拡げる情報

企業主導型保育園で地域に貢献する

働く女性を支え、人材不足を解消する

今年4月、静岡県三島市に企業主導型保育園「夢咲き保育園」が開園した。設置・運営するのは同市に本社を構えるアルムシンシア株式会社だが、園の利用者は同社の社員だけではなく、地域住民や地元企業に勤める人たちだ。この地に企業主導型保育園を開園した背景から、園の特色、さらに今後のビジョンまで、栗栖真治取締役社長と鈴木順也取締役、保育園管理事務局長の渡邉夕佳理氏に伺った。

子どもの預け先がなく、辞めてしまう…
人材不足を前に、新たな施策を模索
製造業を中心とした業務委託事業ならびに人材派遣事業を営むアルムグループ。静岡県三島市に本社を構え、静岡県、神奈川県、山梨県を中心に事業を展開している。全事業の約8割を占める業務委託事業では、工場内で業務を請け負うケースが主になる。なかでもカテーテルなどの医療用器具を製造する工場での勤務が多く、女性従業員の比率が比較的高いのが特徴だ。また、人材派遣事業ではここ数年人材不足が顕著で、産休・育休中の女性社員の代替要員として人材を派遣すると、派遣先から「(産休・育休から復帰せず)辞めたから、このまま働いてもらいたい」と言われるケースも増えていた。
「弊社においてもクライアント企業においても、産休・育休が明けるタイミングで女性社員が辞めてしまう、というケースが増えていました。そして、その理由の多くが、保育園に入れなかったから、倍率が高くて今後も入れそうにないから、というものでした。産休・育休など女性が働き続けやすい制度を会社として整備しても、預け先がなければやはり働き続けることは難しく、新たな施策が必要であることは明白でした。私たちの事業は人がいてこそ成り立つものなので、人が減れば会社の売り上げも減るだろうと、危機感も募っていました。そんな状況があり、弊社自身のためにもクライアント企業のためにも、自分たちに何かできることがあるのではないかと考えるようになりました」(栗栖社長)
企業主導型保育園の設置・運営で、
創業の地に貢献する
こうした課題を抱えていた2016年、栗栖社長は知人の紹介で企業主導型保育園の存在を知る。企業主導型保育園とは、認可外保育施設に位置づけられているものの、認可保育園と同等のサービスを企業主導で提供する保育施設のこと。設備や管理体制において国の基準を満たせば認可施設並みの助成金が支給されるため、保育料も低額に抑えることができる。休日勤務や昼夜交代制など、従業員の働き方に応じた柔軟で多様な保育サービスを提供できるのが特徴だ。栗栖社長が知ったのは、待機児童や保育所不足を解消するために、国が取り組みを始めた矢先だった。
「これはいい施策だと思い、さっそくどこにつくろうかと考えました。当初の目的は弊社の女性社員の就労支援だったので、うちの社員が多く働く工場の近隣を考えたのですが、最初は目の届く本社の近くでやってみようということになりました。三島で起業して27年。今では会社の規模も大きくなりましたが、改めて考えてみると、これまで地域にはあまり貢献できていなかったんです。じゃあここに保育園をつくって貢献しようと思い、まずはヒアリングから始めました」(栗栖社長)
候補地の周辺は卸売団地となっており、企業も多く、ショッピングモールもある。調べるうちに、近隣エリアを含めると多くの待機児童がいることがわかった。栗栖社長らは、クライアントや地元企業にもヒアリングを進めていった。
「数字には現れないいわゆる“隠れ待機児童”も含めると、200名ほどの待機児童がいることが予想されました。とくに、ショッピングモールの従業員や車のディーラー、美容師などのサービス業は土日出勤が多いので、子どもの預け先が見つからずに復職をあきらめるケースが多いという現実も見えてきました。保育園への高いニーズに加え、立地も良かったので、最初の園を設立する場所としてこの地を選びました」(鈴木取締役)
子どものチャンスを拡げ、
可能性を育む保育園にしたい
保育や園の運営に関しては「素人同然だった」と言うが、栗栖社長の中には理想の保育園像があった。
「常々、子どもには意欲や自己肯定感を高められる環境を与えてあげたい、そう思っていました。ですから、自分たちがつくる園も、子どものチャンスを拡げ、可能性を育む保育園にしたかったんです。具体的にそれが何かというのを模索していたときに、縁あってブリタニカのアンジー&トニーメソッドに出合いました。幼児英語の必要性は感じていましたし興味もあったので、直感的にこれだ、これをやりたい、と思って、導入を決めました」(栗栖社長)
幼児英語教育へのニーズは地域的にも高かった。卸売業を営む企業が多く、注文のやり取りを英語で行ったり、海外の支社や工場に出張したりする機会が比較的多い。「そこで英語ができずに悔しい思いをしたり、英語に対するコンプレックスがあったりして、自分の子どもには英語が話せるようになってほしい、と考える親が多いようだ」と鈴木取締役は言う。こうして、新園のコンセプトに「英語」が加わった。名称も『夢咲き保育園』に決まり、今年4月に開園を迎えた。
ブリタニカ・ジャパンの「アンジー―&トニー」のコンセプトの一つが、日常生活の中で英語に慣れ親しむこと。保育士や幼稚園教諭も巻き込んでレッスンを行うことで、彼らの英語力をあげ、レッスンのときだけでなく、普段から歌や踊り、ゲームなどを通して英語に触れる環境をつくることを重視している。夢咲き保育園でも、週1回20分のレッスンに加え、毎日英語の歌を歌い、普段のちょっとした声かけにも英語を使うことを心がけている。英語専門の講師はもとより保育士もブリタニカの研修を受けており、保育士も英語を使うことに対してポジティブな姿勢で取り組んでいるという。さらに夢咲き保育園では、英語専門の講師が常駐し、園全体の英語教育の水準を高めている。
企業ならではの柔軟な発想で運営し、
保育士が働きやすい環境をつくる
夢咲き保育園では、39名の定員の半分を提携企業枠、半分を地域住民枠としている。今年度は4、5歳児枠を除いてすでに定員が埋まっている状況だ。現在までに提携企業は17社に上っており、声をかける企業の約8割から提携したいという回答を得ているという。こうした反響からも、保育園が真に必要とされている地域の実情がうかがえる。
企業主導型保育園は、国からの補助金が通常の認可保育園よりも5%ほど少なく、その分を企業側が負担することになっている。アルムシンシア株式会社では、提携先のうち同意を得られた企業に運営費の一部を負担してもらい、費用を負担する企業の従業員は入園予約時期を優遇する、というシステムをとっている。こうした柔軟な発想も、企業ならではだ。また、保育士の待遇や評価、働き方も、いわゆる保育業界の通例とは一線を画している。
「週休の確保、有休取得、残業代の支払い、評価制度や昇級など、私たち企業にとっては当然のことも、保育士の方には異例の高待遇と映ったようです。保育士の方と話をするなかで、改めて保育業界の過酷さを知りました。保育士が長く働きたいと思える職場にするのも、私たちの目標です」(渡邉氏)
保育園の整備と働きやすい環境づくりの
両輪で、働く女性を応援したい
アルムシンシア株式会社では、2019年以降にオープンを予定している大型商業施設内に2園目をつくる計画を具体的に進めている。さらに、「次は弊社の社員向けの園にしたい」と栗栖社長は3園目にも意欲的だ。そして、保育園の整備と同時に、女性が働きやすい職場環境づくりにも力を入れている。
「製造業の現場には、いまだに女性用のトイレがないところもあるんです。また、工場のシフト勤務制が家事や育児との両立を妨げているという面もあります。そこで私たちは、人材確保のためには物理的な環境整備やシフトの調整が不可欠だということをクライアントに訴えてきました。その結果、従業員が働ける日(シフト)に働く、という新しい働き方を導入できた職場もあります。また、女性従業員を増やす試みをしている現場もあります。まだまだ道半ばですが、子どもを安心して預けられる保育園の整備と働きやすい環境づくりの両輪で、働く女性を応援する企業を目指したいと思っています」(栗栖社長)
最後に鈴木取締役は、「保育園事業に参入したことで、働く母親の声を聞く機会が増え、自社の女性従業員への理解も高まった」と、本業にもフィードバックがあったことを強調した。
保育園の整備により地域貢献をするというアルムシンシア株式会社の取り組みは、今後さらに増えることが予想される企業主導型保育園の一つの好事例となるだろう。

アンジー&トニー

百科事典などの出版で知られるブリタニカ・ジャパン株式会社が、幼稚園および保育園向けに、短期間で英語を教える環境が導入できるよう開発した英語プログラム。外部講師に頼らず、担任の保育士や教諭が主体となって日常の保育・幼児教育の中に英語を導入できるのが特色。園児たちが楽しみながら日常的・継続的に英語に触れ、習得できるプログラムとなっている。2015年のリリース以降、多くの保育園・幼稚園で導入されている。

アルムグループ

アルムホールディングス株式会社をはじめとする8社からなるアルムグループは、製造請負(受託)事業、人材派遣・紹介予定派遣事業、人材紹介業、アジアビジネスサポート事業などを手がけるアウトソーシング事業者。本社は静岡県・三島市。「夢咲き保育園」は、グループ内のアルムシンシア株式会社により運営されている。

文/笹原風花 撮影/ヤマグチイッキ