2018.4.19

こどもの可能性を拡げる情報

オランダで広がる「イエナプラン教育」 

個性を尊重し、自律と共生を学ぶ

いま日本では、従来の知識偏重型の教育、教師から生徒への一方通行の教育を脱し、考える力、自ら学ぶ力を育てる教育へと転換を図る動きが盛んだ。義務教育においても、グループワークや探求型、双方向型の学習を取り入れている学校が増えているが、それが授業の主流になっている事例はまだ数少ない。そのようななかで、近年注目を集めているのが、オランダを中心に行われている「イエナプラン教育」だ。一体どのような教育なのか、一般社団法人日本イエナプラン教育協会理事の田村悠子さん、中川綾さんのお二人に伺った。

ドイツで生まれ、教育制度の
自由度が高いオランダで広がる
一人ひとりの個性を尊重しながら自律と共生を学ぶ「イエナプラン教育」は、いわゆる「オルタナティブ教育(非伝統的な教育)」の一つ。その発祥は、ドイツのイエナ大学の教育学教授だったペーター・ペーターセン(1884-1952)が同大学の実験校で取り組んでいた教育実践にある。そして、イエナプラン教育がオランダに伝わったのは、1950年代のこと。1960年にはオランダで初のイエナプラン教育校が設立された。その後、民主化やこどもの個性の尊重に重点を置いたオランダの教育改革の流れのなかでイエナプラン教育校は数を増やし、現在では小学校を中心にオランダ国内に220校以上が存在する。
発祥の地であるドイツよりもオランダで広がった背景には、「教育の自由」が憲法で保障されているオランダの教育制度にある。学校設立の自由、教育方法の自由が認められており、公立・私立問わず、オルタナティブ教育を取り入れやすい環境が整っているのだ。公立と私立の学費の差はなく、各学校の教育の質を保障するための国の評価システムも整っていて、「こどもの個性や家庭の教育方針に合った教育を行う学校を、市民が自由に選べるようになっている」と田村さんは言う。
イエナプラン教育校に認定されるための条件が、オランダのイエナプラン教育協会が定める「コア・クオリティ」と「20の原則」を満たした教育を実践すること。コア・クオリティは「自分自身との関係」、「他者との関係」、「世界との関係」からなり、20の原則は「人間について」、「社会について」、「学校について」の3項目からなる。いずれも、イエナプラン教育の根幹となるものだ。
【イエナプラン教育のコア・クオリティ】
1.1 子どもたちは自分の長所と短所を自覚し、自分の特性を活かしながら努力する。(自分自身との関係)
2・1 子どもたちは、異年齢グループの中で発達する。(他者との関係)
3.1 子どもたちは、自分たちが成すことは、生きた真正な(本物で現実の)状況の中に対するものであることを理解し、その中で学んでいくことを学ぶ。(世界との関係)

※リヒテルズ直子訳イエナプラン教育のコア・クオリティより一部抜粋(佐久穂町イエナプランスクール設立準備財団ホームページより)
【イエナプラン教育の20の原則】
1.どんな人も、世界にたった一人しかいない人です。つまり、どの子どももどの大人も一人一人がほかの人や物によっては取り換えることのできない、かけがいのない価値を持っています。(人間について)
2.どの人も自分らしく成長する権利を持っています。(中略)誰からも影響を受けずに独立していること、自分自身で自分の頭を使ってものごとについて判断する気持ちを持てること、創造的な態度、人と人との関係について正しいものを求めようとする姿勢です。(以下、略)(人間について)
6.わたしたちはみな、それぞれの人の固有の性質(アイデンティティ)を伸ばすための場や、そのための刺激が与えられるような社会をつくっていかなくてはなりません。(社会について)
13.学びの場〈学校)で教えられる教育の内容は、子どもたちが実際に生きている暮らしの世界と、(知識や感情を通じて得られる)経験の世界とから、そして(中略)私たちの社会が持っている大切な文化の恵みの中から引き出されます。
15.学びの場(学校)では、教育活動は、対話・遊び・仕事(学習)・催しという4つの基本的な活動が、交互にリズミカルにあらわれるという形で行います。
16.学びの場(学校)では、子どもたちがお互いに学び合ったり助け合ったりすることができるように、年齢や発達の程度の違いのある子どもたちを慎重に検討して組み合わせたグループを作ります。

※リヒテルズ直子訳イエナプラン教育の20の原則より抜粋(日本イエナプラン教育協会ホームページより)
3学年混在の異年齢グループで
学び方を学ぶ
イエナプラン教育の特徴が、異年齢のこどもからなる学級編成だ。1クラスは通常25~30名程度で、3学年が混在したいくつかのグループ(根幹グループ)に分かれている。こどもたちは同じグループの中で年少・年中・年長の立場を経験しながら成長し、小学校の場合はそれを3ターム繰り返す(オランダは4、5歳~12歳まで8もしくは9年間小学校に通う)。そして、先生はグループリーダーと呼ばれ、“ティーチャー”ではなく“ファシリテーター”的な存在として、こどもたちの学びを支える。
<イエナプランのマルチエイジの学級編成図>
「イエナプラン教育では社会や他者との関係を重視しており、異年齢グループを軸にしているのも、多様な人々が存在する実社会に合わせてのことです。年少・年中・年長の立場を経験することで、わからないことを年上の子に尋ねたり、困っている年下の子に教えたりという、こども同士の学び合いが生まれます」(田村さん)
「同年齢だと、学力や体力の差などから“できる子”と“できない子”が固定してしまいがちですが、異年齢構成にすると、学力や体力に差があってあたりまえなので“できない”という立場も“できる”という立場も両方を経験できるのです。そして、何ができて何ができないかというこどもの長所・短所、つまり個性を認め合えるようになります。先生がクラス全員に向けて行う一斉型の授業ではなく、こどもが自律的に学ぶ授業は、教室が騒がしくなるイメージがあるかもしれません。しかし、実際にイエナプラン校に視察に行った方からは、そのようなことはまったくなく、こどもたちは静かに落ち着いてそれぞれの課題に取り組んでいた、と聞いています」(田村さん)
1クラスに3学年もいると、グループリーダーはどう教えているのだろうと疑問が湧くが、「グループリーダーは教え与える存在ではなく、支援促進する存在です」と中川さんは言う。例えば、まずはグループリーダーが1年生だけを集めて足し算のやり方を説明する。説明を聞いてわかった子は席に戻って自分で課題を進め、質問が出てきたときにはグループリーダーやグループの年長者(2年生や3年生)に尋ねる。一方、一度の説明ではわからなかった子はグループリーダーのところに残り、もう一度説明を受ける。この間2、3年生は自分のやるべき課題を自律的に進めている。
「イエナプラン教育では、学年ではなくこどもの発達や個性に合わせて学ぶことが重視されるので、グループリーダーが与える課題もこども一人ひとりで異なります。例えば、学年は2年生でも1年生の内容が理解できていなければやり直すこともあるでしょうし、分野によっては応用的な内容に進むこともあります。その子にとってどういう環境や題材が一番いいかを考えながら課題を出しますが、その課題をどのような順番で進めるか、計画はこども自身が決めます。学び方はひとつではなく、例えば、算数の課題1つをとってみても、ブロックを使って理解したり、絵に描きながら理解したり、いろいろな方法で経験しながら、学び方を学ぶことも大切にしています」(中川さん)
対話や学び合いを通して、
他者や世界との関係を深めていく
また、イエナプラン教育の学習活動では、クラス全員が輪になって話し合う「サークル対話(車座になって話し合う)」が頻繁に行われる。テーマを設定して話すこともあるが、朝の会のようなものや、テーマを決めずに行うこともある。サークル対話にはグループリーダーも参加して対話のファシリテーターの役割を果たし、こどもたちの様子を見ながら柔軟にアプローチを変える。
教員経験があり、現在は都内の私立中学校・高校で講師を務める田村さんは、自己紹介やプレゼンなど、授業で取り入れやすい機会にサークル対話を実践している。そのときの様子を、こう語る。
「サークルになると、全員の顔が見えてフラットな関係になり、意見も出やすくなります。簡単な自己紹介やプロジェクト学習の成果の共有などをしたところ、多くの生徒が普段の授業よりも積極的に発言していました。サークル対話を楽しみにしている生徒も多かったです」(田村さん)
一方で、サークル対話が苦手だという子もいたが、「慣れの問題」だと田村さんは言う。
「オランダのこどもたちは高学年になると、グループリーダーがいなくても自分たちだけでサークル対話をするようになります。これができるのは、4、5歳からずっとやってきているから。今の日本の学校教育では、自主性が育ちにくいのが実情です。イエナプラン教育を一部でも取り入れることで、生徒も教室の雰囲気も、アクティブなものに変わっていくのではないかと期待しています」(田村さん)
また、総合学習型の「ワールドオリエンテーション」もイエナプラン教育の特色の一つだ。イエナプラン教育では理科や社会などと、学びを科目ごとに分断するのではなく、総合的に学んでいる。「環境と地形」「コミュニケーション」「共に生きる」などの7つの経験領域に分類されるテーマに従い、こどもたちはそれぞれの興味・関心のある部分について、さまざまなアプローチ法で掘り下げ、探求する。近年、日本でも導入校が増えている「プロジェクト学習(自ら課題を設定して解決していく学習法)」に近い。学んだことは仲間と共有し、グループ学習としても深めていく。
「イエナプラン教育では、科目ごとの時間割はなく、『サークル対話⇒学習(仕事)⇒遊び⇒行事(催しやお祝い)』の4つの活動を循環させながら、リズミカルな活動を展開していきます。このような、対話や誰かと共に何かをつくる、といった私達の社会でおこなわれていることを通して、コア・クオリティにもある自分自身との関係、他者との関係、世界との関係というものを深めていくのです。こうした関係をつくることができれば、自分と他者との違いを受け入れ、互いを大切にすることができるようになるのではないでしょうか。自分も他者も一人の個性ある人間として尊重し、共に生きようとすることは、イエナプラン教育の根幹でもあるのです」(中川さん)
2019年4月、日本初の
イエナプラン教育校が開校予定
一般社団法人日本イエナプラン教育協会は、日本におけるイエナプラン教育の発展・普及のために2010年に設立され、各地で活動を続けてきた。学校教育の一部にイエナプラン教育を取り入れる学校も少しずつ増えており、協会が主催する全国大会などで実践事例の共有も進んでいる。東京都大島町立つつじ小学校や宮城県石巻市立雄勝小学校など、なかには公立の小学校でも先進的な取り組みをしている学校が出てきているという。
そして今、新たな取り組みも始まっている。日本初のイエナプランスクールを長野県佐久穂町に設立しようと財団を立ち上げ、2019年4月の開校を目指して準備を進めているのだ。この取り組みに日本イエナプラン教育協会も協力しており、中川さんは財団の代表理事も務めている。
「基本理念はイエナプラン教育を踏襲しつつ、文部科学省の学習指導要領に則り、あくまでも学校法人として設立させることを重視しています。オランダだからできる、私立学校だからできる、というのではなく、公教育のモデル校として、日本の学校教育の枠組みの中でもイエナプラン教育が実践できるのだということを示したいと考えています」(中川さん)
こどもは自分とは異なる人間。
家庭でこそ、こどもの個性を尊重してほしい
最後に、イエナプラン教育の理論や実践のうち、子育てや家庭学習にも取り入れられるものがあるか、3児の母でもある田村さんに伺った。
「イエナプラン教育の20の原則のうち、『人間について』の5つの原則は、まさに子育てに当てはまるものだと思います。こどもと接していると、つい、こどもをコントロールしてしまうような局面があります。そんなときに、こどもは自分とは異なる人間である、というイエナプラン教育の原則に立ち返ると、気持ちがすっと落ち着きます。こどもを叱ったときにも、今の言葉は本当に伝える必要があった言葉だろうか、そもそも自分は何のためにあのような言葉を発したのだろうか、と冷静になって考えてみる。これはとても大事なことなのではないかと思います。実際は私も、日々イライラして怒ることもありますが、協会支部の勉強会で20の原則や学習指導要領を読み合い対話してきたことが、自分の育児のプラスとなってきたと感じています。自分には無い視点に触れたり、本質をじっくりと考える場に定期的に参加することが、自分の子育てを振り返る良い機会ともなっています」
田村さんがもっとも心打たれ、大切にしているという、20の原則の冒頭だ。
「どんな人も、世界にたった一人しかいない人です。
 つまり、どの子どももどの大人も一人一人が
 ほかの人や物によっては取り換えることのできない、
 かけがえのない価値を持っています」
※「イエナプラン教育の20の原則」「人間について」1より
一人ひとりの個性を尊重しながら自律と共生を学ぶ、イエナプラン教育。今後の日本でのさらなる展開に、注目したい。

一般社団法人 日本イエナプラン教育協会

2010年、教育・社会研究家でオランダの教育に詳しいリヒテルズ直子氏により設立。日本におけるイエナプラン教育の発展・普及のために、市民の自発的な教育活動を支援、促進し、イエナプラン教育の実践をもとに、情報交換や研究を深めていく場をつくることを目的としている。東京の本部、国内外に13の支部があり、20の原則を読んだり、実践から学び合ったりと、定期的に勉強会などを開催している。

文/笹原風花 撮影/石河正武