2018.3.22

こどもの可能性を拡げる情報

後編)こどもが変わる“睡眠”習慣

睡眠リズムの乱れが心身の不調を招く

不要な昼寝により夜寝る時間が遅くなり、体内時計のリズムが乱れ、朝から調子が悪い。そして、その影響は小学校高学年まで残る…。前編ではそんな“昼寝による遅寝のリスク”を中心に解説し、早く寝るための工夫も紹介したが、親が注意すべきことはそれだけではない。後編では、休日に潜むワナについて、さらに世界一短いとも言われる日本人の睡眠について、引き続き江戸川大学睡眠研究所の福田一彦先生に伺った。

平日と休日の睡眠リズムのずれが
精神面にも身体面にも悪影響を及ぼす
平日は早寝早起きを心がけていても、休日の前夜に夜更かしをしたり、休日の朝にいつもより遅くまで寝ていたり…ということは、誰しも少なからずあるだろう。実は、この“平日と休日の起床時間のずれ”が大きいと、さまざまな面で非常にリスクが高いと、福田先生は述べる。
「例えば、これは文部科学省が全国の中学生を対象に行った調査ですが、平日と休日の起床時間が2時間以上ずれる頻度とイライラの有無との関係についての調査結果を見ると、よくずれる人ほどよくイライラし、あまりずれない人はあまりイライラしていません(図1)。つまり、平日と休日の起床時間のずれは、精神状態の悪化を招くのです」
(図1)平成26 年度「家庭教育の総合的推進に関する調査研究」-睡眠を中心とした生活習慣と子供の自立等との関係性に関する調査-(文部科学省資料)を基に作図
さらに興味深いのが、こどもを対象にした次の調査だ。平日・週末の生活習慣(起床・就寝・朝食・夕食の時刻)によりこどもを5つのグループに分ける。グループ1がもっとも「夜更かし朝寝坊」で、グループ4がもっとも「早寝早起き」になる。そして、平日と週末とのずれが大きい、つまり「平日は早寝早起きなのに週末だけ朝寝坊」をグループ5とする。それぞれのグループについて、体調不調、朝の機嫌の悪さ、気の散りやすさなどの症状を調べたところ、次のような結果となった。
  • 体調不調、朝の機嫌の悪さ、新奇性恐怖(初めてのものに対する恐怖心)、気の散りやすさ、食事の落ち着きのなさなどについて、グループ1(夜更かし朝寝坊)のポイントがもっとも高い。
    →夜更かし朝寝坊は心身への悪影響が大きい。

  • 体調不調、朝の機嫌の悪さ、新奇性恐怖(初めてのものに対する恐怖心)、気の散りやすさ、食事の落ち着きのなさなどについて、グループ2よりもグループ3のポイントが低くなり、グループ4(早寝早起き)はもっとも低い。
    →早寝早起きの人は心身の健康状態が良い。

  • グループ5(平日は早寝早起きなのに週末だけ朝寝坊)は、グループ2、3と同様もしくはそれ以上にポイントが高い。
    →平日と週末とのずれが大きいことも心身への悪影響がある。

「もっとも夜更かし朝寝坊をしているグループ1、2に心身の不調の症状が多く見られることは予想がつきますが、2番目か3番目に悪いのがグループ5です。一部の症状では、グループ2よりもポイントが高くなっているほどです。つまり、いくら平日に早寝早起きをしていても、週末に朝寝坊をすると台無しになってしまうのです。平日の睡眠不足を週末に補おうと考えて遅くまで寝ているのは、大人にせよこどもにせよまったく誤った考え方です。遅くまで寝ることで時差ボケのような状態(ソーシャル・ジェットラグ)になってしまいます。ひどく乱れた生活が長期化すると、脳の萎縮、反応時間や、正答率の低下などの弊害が出てくるというデータもあります。週末くらいゆっくり寝たい…と思うかもしれませんが、こどものためにも自分のためにも、平日と休日のずれはできれば1時間以内にとどめるようにしましょう」
睡眠時間は長すぎてもダメ。
最適な睡眠習慣が、体力・知力の源になる
そもそも、昼間に眠たくなったり、休日に日頃の睡眠不足を補おうと寝溜めをしたりしてしまう背景には、日本人の慢性的な睡眠不足がある。「NHKの国民生活時間調査」によると、1960年から2000年までの40年間で日本人の睡眠時間は平均して約1時間短縮している。思春期のこどもの睡眠時間も諸外国に比べて短く、台湾と並んで常時ワースト1、2位を争っている(図2)。
(図2)「睡眠社会学研究の現状と課題.睡眠学-眠りの科学・社会学-(高橋清久編)、じほう 169-184.」福田一彦(2003)
では、睡眠時間は長ければ長いほどいいかというと、必ずしもそうではない。
「睡眠時間が短い状態が長期間続くと、死亡率(図3)やBMI、動脈硬化発生率、発ガン率などの値が高くなりますが、実は睡眠時間が長い人にも同じ傾向があります。睡眠時間は短すぎても長すぎてもよくないのです。同様に、睡眠が短すぎるこども(小中学生)も長すぎるこどもも成績が落ちるという調査(図4)もあります。睡眠時間が過度に長い人の中には、寝るのが遅く昼間もダラダラと寝ているような状態も含まれており、そういったケースの場合は、不登校やうつ病とも関わってきます。睡眠の量(時間)だけではなく、睡眠時間が後ろにずれている(=寝る時間が遅くなっている)こと、睡眠のリズムが一定でないことが、リスクなのです。実際、夜勤・昼勤のあるシフト制の業務に従事している人や、頻繁に時差を体験するキャビンアテンダントなどは、前立腺がんや乳がんの罹患率が高くなることがわかっています。昔から、“早寝早起き朝ごはん”が健康の秘訣と言われてきましたが、まさにその通りで、大切なのは早寝早起きで最適な長さの睡眠をとることなのです」
(図3)Kripke, D.F., Garfinkel, L., Wingard, D.L., Klauber, M.R., Marler, M.R. (2002) Mortality associated with sleep duration and insomnia. Archives of General Psychiatry, 59, 131-136.
(図4)広島県教育委員会「平成15年度「基礎・基本」定着状況調査報告書」
眠りの“質”は個人の感覚で決まる。
寝つきの良さは “快眠” の秘訣
最後に、“眠りの質”について、福田先生に伺った。
「よく“眠りの質”を上げる、というような表現がありますが、そもそも質の高い睡眠とは何かを定義することは難しく、深ければいいというわけでもありません。いわゆる眠りの“質”は、起きたときの感覚、つまり、“よく寝た”という感覚で決まります。ストンと寝つけて夜中に目が覚めなかったら、 “よく寝た”と感じ、なかなか寝付けず夜中に目が覚めたときは、“あまり眠れなかった”と寝不足を感じるかもしれません。この点でも、昼間はしっかり活動して夜にスムーズに寝つくことは、こどもにとっても大人にとっても、とても大事なことになるのです」
帰宅後も家事・育児に追われるワーキングマザーにとっては、こどもの早寝は悩ましい問題だが、早寝早起き習慣の重要性、そして就寝時間が遅くなることや睡眠不足のリスクは、学術的にここまで明らかになっている。家庭内だけでなく社会全体で、こどもの、そして日本人の睡眠について、考え直すときが来ているのかもしれない。

福田 一彦

江戸川大学睡眠研究所所長。同大社会学部人間心理学科教授。医学博士。早稲田大学心理学博士課程満期退学(東邦大学にて医学博士の学位取得)。福島大学教育学部教授などを経て現職。認知心理学、睡眠の心理学、精神生理学、時間生物学を専門とし、金縛り体験の生理心理学的研究や国際比較研究などを行う。そのほか、眠りの発達、とくに乳幼児期における睡眠覚醒リズムの発達や乳児の昼寝の消失についても研究を進めている。

文/笹原風花 撮影/石河正武