2018.3.15

こどもの可能性を拡げる情報

前編)こどもが変わる“睡眠”習慣

昼寝が引き起こす睡眠の悪循環

「寝つきが悪い」、「朝、起きられない」、「登園を嫌がる」、「保育園の昼寝の時間が苦痛のようだ」…など、こどもの生活習慣や態度について悩みを抱えている親は少なくない。こどもの睡眠に詳しい江戸川大学睡眠研究所の福田一彦先生によると、こうした問題の多くは、睡眠に関する“あること”が原因となっているという。前編では、こどもの睡眠の本来あるべき姿やそれが崩れることによるリスクについて、福田先生に伺った。

睡眠不足を昼寝で補う!?
その“分断睡眠”が体内時計のリズムを乱す
そもそも睡眠とは何かという問いに対して、福田先生はこう答える。
「睡眠とは、脳の中にある複数のメカニズムが脳を“睡眠”という状態に変化させる積極的なプロセスによって起きている現象です。“睡眠=休息”とシンプルに説明できない複雑な現象なのです。2017年のノーベル生理学・医学賞は、サーカディアン・リズム(体内時計)を生み出す遺伝子とそのメカニズムを発見した研究者たちに贈られましたが、その体内時計と睡眠とは大きく関係しています。つまり、夜になると眠り、朝になると目覚める、というサイクルが私たちの体にはもともと組み込まれているのです」
人体に必要不可欠な“仕組み”である睡眠は、当然、こどもの心と体の発達にも欠かせない。睡眠が不足したりリズムが乱れたりするとさまざまな悪影響が出るが、それについては後述する。適切な睡眠時間には個人差があるが、アメリカのNational Sleep Foundationは、3〜5歳では10〜13時間、6〜13歳では9〜11時間を推奨睡眠時間として提示している。しかし、とくに日本のこどもたちは睡眠時間が短い傾向があり、その主な要因は「夜寝る時間が遅くなっていること」にあると福田先生は指摘する。
「人間は昼行性の動物なので昼に活動して夜に眠るのが基本ですが、寝るのが遅くなるとこの体内時計のリズムが乱れてしまいます。また、学校や園がある平日は、遅く寝ても朝起きる時間は変わらないので、結果的に睡眠不足になります」
夜の睡眠の不足分は、昼寝や週末のいわゆる“寝溜め”で補えばいい、と考えがちだが、「長時間の昼寝や寝溜めは逆効果」と福田先生は語る。トータルで睡眠時間が確保できればいいというのは誤りで、夜に集中して眠る“夜間睡眠”が重要であり、昼寝などの“分断睡眠”は体内時計のリズムが乱れる原因になる。また、休日の朝に遅くまで寝ていると夜寝る時間が遅くなり、同様に体内時計のリズムを乱してしまう。こうした事実は、こどもの睡眠にも当てはまるというのだ。
4、5歳を超えると昼寝は不要
心身の状態に悪影響を与えるおそれあり
「一般的に、“こどもにとって昼寝は必要なもので、良いものだ”という固定観念がありますが、少なくとも4、5歳を超えるとだんだんと昼寝は必要なくなり、むしろ心身の状態に悪影響を与える可能性があることがわかってきています。生まれたばかりの赤ちゃんは体内時計のリズムが完成していないので、昼も夜も睡眠と覚醒を繰り返します。次第に夜にまとめて眠るようになり、昼寝も午前1回、午後1回になり、そのうちに午後1回だけになります。そして、3歳〜6歳の幼児期になると昼寝をするこどもの割合は減少し、小学校入学前にはなくなります。このように、乳児期には夜間睡眠がほぼ確立し、個人差はありますが、3歳頃になると昼寝をしなくても覚醒状態を維持できる発達段階に入ることがわかっています」
一方で、日本やアメリカでの調査データを見ると、3歳児でも昼寝をしているこどもは少なくない(図1)。しかし、幼稚園児と保育園児のデータを比較すると、“不自然な昼寝”が見えてくると福田先生は述べる。
「幼稚園児は平日も休日もあまり昼寝をしていませんし、保育園児も休日は昼寝をしていません。つまり、自然な状態では3歳頃からは年齢とともに昼寝をしなくなっていくということがわかります。一方、保育園児は5、6歳になっても、平日は昼寝をしています。保育園ではお昼寝タイムがあり、寝かせつけられているんですね。つまり、保育園の昼寝の習慣は、発達段階に合わない不自然なこと、必要ないものだとも言えるのです」
(図1)『眠りたいけど眠れない』堀忠雄(編)昭和堂より、「お昼寝がつくる幼児の夜更かし」福田一彦(著)
昼寝により乱れた体内時計のリズム、
その影響は小学校入学後も残る
では、必要でない昼寝をすることで、こどもの心身の状態にどのような悪影響があるのだろうか。福田先生は幼稚園児と保育園児について調査した結果(図2)を示しながら、次のように解説する。
(図2)『眠りたいけど眠れない』堀忠雄(編)昭和堂より、「お昼寝がつくる幼児の夜更かし」福田一彦(著)
「保育園児は幼稚園児に比べて、平均して就床時刻が30分ほど遅く睡眠時間も30分ほど短いことがわかります。さらに、園への行き渋り(図3)や朝の機嫌の悪さ(図4)についても幼稚園児より高い数値になっており、寝不足感が強い、朝の気分が悪い、寝つきが悪い、という結果も出ています。つまり、昼寝をすることで夜更かしになる傾向があり、その結果、睡眠時間が短くなり、朝起きられずにグズグズする…という悪循環に陥っている可能性があるのです」
(図3)Fukuda, K. & Sakashita, Y. (2002) Sleeping pattern of kindergartners and nursery school children: Function of daytime nap. Perceptual and Motor Skills, 94, 219-228.
(図4)Fukuda, K. & Sakashita, Y. (2002) Sleeping pattern of kindergartners and nursery school children: Function of daytime nap. Perceptual and Motor Skills, 94, 219-228.
「さらに、こうした幼稚園児と保育園児との差は、昼寝をしなくなった小学校入学後にも残ることがわかっています。元幼稚園児と元保育園児を比較した調査を行ったところ、学校に行きたくない、睡眠が足りない、朝の機嫌が悪い、睡眠の変動が大きい、夜更かしである、寝言が多い、悪夢が多い、などの項目について、明らかに元保育園児の方がポイントが高いという結果が出ました(図5)。この傾向は、高学年まで見られます。昼寝の習慣がなくなってからも、その習慣や睡眠リズムの名残が心身に染みついているということでしょう」
(図5)Fukuda, K. & Asaoka, S. (2004) Delayed bedtime of nursery school children, caused by the obligatory nap, lasts during the elementary school period. Sleep and Biological Rhythms, 2, 129-134.
また、平成26年度の文部科学省調査によると、不登校のきっかけの第2位に「生活リズムの乱れ」が挙がっている。睡眠リズムの乱れが生活リズムの乱れにつながることは容易に想像され、睡眠リズムの乱れは将来的な不登校のリスクにもつながりかねないと福田先生は指摘する。
就寝2時間前に入浴し、
夕方以降はオレンジ色の照明を
このような学術的な調査・研究結果から、福田先生は保育園での昼寝の廃止を提言してきた。実際に4歳児、5歳児クラスで昼寝をやめた東京と足立区の区立保育園では、園児の就寝時間が早まったうえ、親に促されると自分で寝るようになり、寝付きも良くなった(図6)。昼寝を廃止した直後は夕食中に眠たくなってしまう子も見られたが、1か月ほど経つ頃にはこどもたちも昼寝をしない生活リズムに慣れたという。こうした事例を受け、少しずつではあるが、5歳児クラスを中心に昼寝の廃止が広がりつつある。
(図6)「 幼児期の昼間睡眠の発達:自然な消失の過程について、日本睡眠学会ポスター発表」福田一彦・浅岡章一(2013)
とはいえ、こどもが通っている保育園にお昼寝タイムがある場合は、平日に我が子だけ昼寝をさせないというのは難しい。夜、少しでも早く寝つけるようにするためにはどうすればいいか、福田先生に伺った。
「夕方から夜にかけては、部屋の照明を白色ではなくオレンジ色の昼光色にしましょう。そもそも、日本の住宅照明は明るすぎます。白色LED照明機器には青色のLEDが使われていて、いわゆるブルーライトが多く含まれています。また、これまでも使われて来た白い蛍光灯にも同様のブルーライトが含まれているのです。このブルーライトが生体時計に強力に影響を及ぼします。夜にブルーライトを感知すると生体時計の時刻を遅らせ夜更かしを誘導するのです。夜に1時間ブルーライトの下で過ごすという生活を1週間続けると、それだけで自然と就寝時間が2時間も遅くなった、という実験結果もあります。さらに良くないことに、こどもの眼は水晶体が澄んでいて、瞳孔も大きいので、ブルーライトの影響を受けやすいことがわかっています。朝昼は明るく夜は暗くする、という点では、寝室の遮光カーテンなども朝起きたら一番に開けたほうが良いでしょう。
また、食事と入浴の順序に気を遣うといいでしょう。人は体温が下がった時に眠くなるため、入浴後すぐに布団に入ると、体が温まりすぎて寝つきにくいのです。就寝2時間前に39度くらいの少しぬるめのお風呂に浸かるのが理想。すると、寝る頃にはちょうど体温が下がり、入眠しやすくなります。保育園から帰宅したらまず夕食…となりがちですが、ぜひ、“先にお風呂”を試してみていただきたいと思います」
後編では、親子でつい陥りがちな睡眠の思わぬ“穴”について伺っていく。

福田 一彦

江戸川大学睡眠研究所所長。同大社会学部人間心理学科教授。医学博士。早稲田大学心理学博士課程満期退学(東邦大学にて医学博士の学位取得)。福島大学教育学部教授などを経て現職。認知心理学、睡眠の心理学、精神生理学、時間生物学を専門とし、金縛り体験の生理心理学的研究や国際比較研究などを行う。そのほか、眠りの発達、とくに乳幼児期における睡眠覚醒リズムの発達や乳児の昼寝の消失についても研究を進めている。

文/笹原風花 撮影/石河正武