2018.2.28

こどもの可能性を拡げる情報

自然との共存の鍵を握るエンバイロスクール

世界の学び/ニュージーランドの環境教育

© Enviroschools

世界の教育情報第20回目はニュージーランドからのレポートです。ニュージーランドは自然に恵まれた国として世界的に有名です。人々の暮らしを豊かにし、経済を支える自然を将来も維持するために、国が力を入れているのが環境教育。その中でも、特に力を入れている学校は「エンバイロスクール」と呼ばれ、身近な環境改善をする学習プログラム「エンバイロスクールプログラム」を実践しています。ニュージーランドレポート2回目の今回は、生徒自身が中心となり自然保護のスキルを身につけたり、社会貢献も行うこの「エンバイロスクール」とそのプログラムについて紹介します。

自然の恵みによって潤う、
人々の暮らし
「ニュージーランド」と聞いて、多くの人が思い浮かべるのが、「豊かな自然」ではないでしょうか。国内には13の国立公園、世界遺産に指定された3つのエリアがあり、国土の約33%が自然保護区。その割合は徐々に増えています。海洋保護区も50カ所以上に上ります。
自然とニュージーランド人の関係は切っても切れません。人々は毎日のようにビーチや森林を訪れ、長期休暇ではキャンプなどのアウトドアを満喫し、自然に対して愛着をもっています。また、国の経済も天然資源の恩恵を受けています。第一次産業が盛んで、中でも酪農業は長年にわたり国の主産業として定着しています。2016年に輸出額で酪農業を超えた観光業も、自然なくしてはあり得ません。
こうした社会背景に加え、先住民マオリやヨーロッパからの移民による開墾などが原因で原生林の面積や動物の数が激減した苦い経験から、人々はみな環境保護に熱心です。政府もまた、ニュージーランド特有の自然環境を守り、維持することが、国の将来を支えると考えています。
そこで、今ある自然を守りつつ人々が豊かに暮らしてくために国が力を入れたのが「環境教育」でした。環境教育は、一般的に小中高(5~17歳)の教育課程において、理科、社会、技術の学習分野と関連付けて行われています。サステイナブルな学校づくりを目標に、実践を通し、生徒同士が協力し、責任を持って学び合います。ニュージーランドの環境教育における「サステイナビリティ」とは、「校内はもちろん、校外の周辺コミュニティでも、環境にかかる負荷を少なくし、人間を含む全生物が、現在も将来も健康で平和に生き続けることができるよう配慮する」ということです。さらに、環境教育により力を入れることを決めた学校には「エンバイロスクールプログラム」と呼ばれる特別なプログラムが用意されています。
「エンバイロスクールプログラム」を導入する学校に設けられた、希少な原生植物の種苗場
環境教育を強化したい学校が取り入れる
「エンバイロスクールプログラム」
世界的に深刻化する気候変動を受け、より充実した環境教育を行いたいと考える学校が増えています。そんな学校が取り入れているのが、国認可の「エンバイロスクールプログラム」。そして同プログラムを取り入れている教育機関は、一般的に「エンバイロスクール」と呼ばれています。
「エンバイロスクールプログラム」は、健康的かつ安全でサステイナブルな学校をこどもたちの手でつくれないだろうかという政府の諮問機関の発案で、1993年に3校で試験的に始められ、2001年から全国的に実施されるようになりました。現在では、全国の小中高校(5~17歳)の約40%が同プログラムを実施。近年では幼児教育施設(0~5歳)にも広まりを見せ、数はさらに増えています。
「エンバイロスクール」が「エンバイロスクール」であるためのルールは5つ。「サステイナビリティ」「環境教育」「生徒の積極参加」「多様な人々と文化」「先住民マオリの世界観」です。実践するプロジェクトに、これらすべてが反映されている必要があります。それが守れない学校は「エンバイロスクール」と呼ぶことはできません。そして、プロジェクトの学習テーマは「環境」「効率の良い建物」「水」「エネルギー」「ごみ」の5つです。校内で実行するプロジェクトはこの5つのテーマのどれかに当てはまるものでなくてはなりません。例えば「水」というテーマのもと、近くを流れる川の水質調査を地元の研究機関と共に行ったり、「ごみ」というテーマのもと、海岸線のごみを回収し、ごみを持ち帰ることを奨励する看板を立てたりというようにプロジェクトを行うのです。
オーガニック菜園を設けた学校を例に挙げて、活動をご紹介しましょう。低所得家庭のこどもが多く通う学校で、健康的な食事をとるのが難しいことを踏まえて生徒たちが思いついたのが、全生徒が野菜を食べられるよう、オーガニック菜園をつくり、自給自足を目指そうというプロジェクトでした。オーガニック農園を営む保護者にアドバイスをもらいながら、生徒たちが菜園に適した場所、規模、育てる野菜の種類を調べ、考え、必要な資材を割り出し、費用を算出しました。実際、菜園を設ける際には保護者が材料を寄付したり、手を貸したりしました。苗の植え付け日は、先住民マオリ独特のカレンダーをもとに決めました。
堆肥には菜園や学校生活から出る生ごみを集めて使います。収穫物を材料にランチをつくり、余りは生徒の家庭や周辺コミュニティに配りました。種も収穫し、半分は次回のために取りおき、残りの半分は種子交換会で他の野菜の種と交換したり、生徒たちがデザインしたオリジナルパッケージに入れて、ファーマーズマーケットで売ったりしました。また売上金は新しい農機具代にあて、菜園2年目に備えました。
このプロジェクトでは、「エンバイロスクールプログラム」の学習テーマとルールがきちんとおさえられています。 学習テーマの面では、「環境」「水」「ごみ」と複数をカバーしています。ルールの面では、オーガニック菜園での自給自足を目指した点で「サステイナビリティ」、菜園を設ける際に地元の気候風土、植物について学んだ点で「環境教育」、生徒が菜園の発案から作物の収穫に至るまで先導して行ったことで「生徒の積極参加」、生徒の家庭や周辺コミュニティに収穫物を配布した点で「多様な人々と文化」、苗の植え付けをマオリのカレンダーに基づいて行ったことで「先住民マオリの世界観」とすべて網羅されています。
また、一般の学習分野との連携も図っています。例えば、畑の規模を考える時は算数、料理をする時は技術、種子のパッケージをつくる時は英語(国語)と美術を学んでいることになるのです。あくまでも生徒主導ですが、エンバイロスクールプログラムの原則や学習テーマから外れないよう、学習分野にまたがり効果的に学べるよう計画・指導するのが教師で、我慢強く、サポート役、応援役に徹します。
「エンバイロスクール」でのプロジェクトの一つ。こどもたちが原生樹木を生育し、生態系の維持に努める「ツリー・フォー・サバイバル」の活動の様子を描いた絵「ツリー・フォー・サバイバル」は「エンバイロスクール」だけでなく、一般校、コミュニティ、個人、地方自治体、企業などの協力の下、全国的な広がりを見せている。
「エンバイロスクール」から拡がる
サステイナブルの精神
「エンバイロスクール」がもたらすのは、より良い自然環境だけではありません。生徒たちに精神的なメリットも与えてくれます。自分たちがリーダーシップをとってプロジェクトを最後までやり遂げた達成感は何ものにも代えがたく、自信と誇りが生まれます。
学校のプログラムでありながら、周囲のコミュニティに貢献しているのも、「エンバイロスクール」の特長です。例えば学校菜園で収穫した野菜を近隣の家庭に配ったり、校内で繁殖させた原生植物を地方自治体に寄付し、公園や保護区に植えたりすることで、支援してくれるコミュニティに恩返しすることの大切さも学びます。また、プロジェクトで育てた植物を家庭に持ち帰り、親や兄弟姉妹と一緒に庭に植えたり、身につけた知識を話すことで、生徒たちが学んだサステイナブルの精神は、より多くの人に拡まっています。
昨今、各国でさまざまな環境教育が模索される中、「エンバイロスクール」のコンセプトは海外でも知られるようになってきており、チリ、シンガポール、ブルネイ、アルゼンチンの教育者が視察に訪れています。近い将来、世界中の人々が、ニュージーランド生まれの「エンバイロスクールプログラム」を体験できるようになるかもしれません。

クローディアー真理

グローバルママ研究所リサーチャー。日本での編集者としての経験を生かし、1998年にニュージーランドに移って以来、主にライター/ジャーナリストとして印刷・ウェブ媒体に寄稿。家族はニュージーランド人の夫と、娘ひとり。


グローバルママ研究所

世界33か国在住の170名以上の女性リサーチャー・ライターのネットワーク(2017年4月時点)。企業の海外におけるマーケティング活動(市場調査やプロモーション)をサポートしている。