2018.2.7

こどもの可能性を拡げる情報

前編)公立中高一貫校、人気の理由を探る

学費面だけじゃない、その魅力とは?

現在、首都圏には21校(2017年現在)の公立中高一貫校があり、全国的にも年々増加している。私立中高一貫校に比べて費用面で安く、一般的な公立中学校・高校よりも質の高い教育が受けられ大学受験にも有利…という印象が強く、実際に高い合格実績を挙げている学校も多い。人気を博している公立中高一貫校だが、どのような特色やメリットがあるのか、また、デメリットはないのか、適性検査の「受検」(試験ではなく検査なので「受検」の字を用いる)事情はどうなっているのか。公立中高一貫校をはじめ国内の教育事情に詳しい安田教育研究所代表の安田理氏に伺った。

「中等教育学校」と「併設型」
中等教育の多様化を目的に、全国的に開設
公立中高一貫校は、1998年の学校教育法の一部改正をきっかけに、全国的に設立されるようになった。設立の目的として当時の文部省(現・文部科学省)は、「中等教育の多様化を一層推進し、生徒の個性をより重視した教育を実現するため」としている。最初期に設立された学校としては、宮崎県立五ヶ瀬中等教育学校や岡山市立岡山後楽館中学校・高等学校などがある。
さらに、東京都内の公立中高一貫校の設立にあたっては、「都立高校の復権を目指すという背景があった」と安田氏は述べる。
「かつては東京大学をはじめ難関大学に多くの合格者を輩出していた都立高校ですが、1967年に『学校群制度』が導入されて都立高校の平準化が進み、合格実績の伸び悩みや中退者の増加などの課題を抱えていました。そこで、『都立高校の復権を!』という声が上がり、都教委は重点校を決めて再興に力を入れました。その一環として誕生したのが、都立中高一貫校です。2005年度開校の都立白鷗高等学校・附属中学校を皮切りに、翌年には都立小石川中等教育学校、都立桜修館中等教育学校、都立両国高校附属中学校の3校が開校し(千代田区立九段中等教育学校も同年開校)、現在(2017年11月)都内には都立10校、区立1校の計11校があります」
都市部ではこうした進学色の強い公立中高一貫校が設立された一方で、地方の人口減少により中学校までしかない地域では、生徒が高校進学のために地元を出なければならず、若い世代の流出を防ぐ目的で公立中高一貫校がつくられた。地方にはこうした過疎化対策として設立された公立中高一貫校も少なくない。
多くの公立中高一貫校は既存の高校が母体となって中学校が増設されたかたちとなっており、「中等教育学校」、「併設型」、「連携型」の3種がある。中等教育学校は完全6年一貫教育で高校募集なし、併設型(附属校)は中学校から入学すれば6年一貫だが高校募集もある、という違いがあり、「連携型」は近隣にある中学校と高校が連携を取り合うというものだ。連携型については6年一貫教育ではなく、多くの場合は高校進学時にも通常の入試を受ける必要があるため、いわゆる中高一貫校とは一線を画している。
独自性を打ち出した
特色ある教育が何よりの魅力
「質の高い教育を受けられる」という印象が強い公立中高一貫校だが、実際にはどのような教育が行われているのだろうか。都内の学校を例に、安田氏に伺った。
「それぞれの学校が、特色ある取り組みをしています。例えば、2017年入試で東京大学に14名の合格者を出し注目を集めた東京都立小石川中等教育学校では、SSH(スーパーサイエンスハイスクール)の指定を受けた理数教育のほか、国際理解教育にも力を入れています。また、東京都立桜修館中等教育学校では真理を探求する姿勢を育むため、5年(高校2年)次に1年間をかけて研究論文に取り組み、6年(高校2年)次にはその研究論文の要旨を英訳します。都立立川国際中等教育学校では帰国生や都内在住の外国人生徒を積極的に受け入れており国際色豊かですし、千代田区立九段中等教育学校では『九段自立プラン』と名づけたキャリア教育を実施しており、区内の企業・団体や大学、大使館などとの交流を通して、生徒の主体性を養っています。
そのほかにも、東京都立両国高等学校は国語教育、東京都立白鴎高等学校・附属中学校は伝統文化教育と、独自性を打ち出しています。東京は学校数が多いこともあり、各校とも特色を打ち出しています。海外研修を実施している学校も多く、予算面でも公立中学校や経営が厳しい私立より恵まれていると思います。ここに挙げたのは一例ですが、全国的に公立中高一貫校の取り組みや行事などはその母体である高校の伝統や校風に左右されるところも大きいので、母体の高校がどういう学校だったか、自由な校風なのか規律が厳しいのか、文武両道なのか学業優先なのか、という点に着目してみると特徴が見えてくるでしょう」
全国的に見ても、横浜市立横浜サイエンスフロンティア高等学校・附属中学校や京都府立洛北高等学校・附属中学校をはじめ理科教育に力を入れている学校や、中学3年生全員が海外研修に参加する横浜市立南高等学校・附属中学校をはじめ英語教育や異文化理解教育に力を入れている学校は多い。さらに、全寮制男子校の鹿児島県立楠隼中高一貫教育校など特色ある学校もある。各行政区の教育重点校に指定されているケースも多く、概して「質の高い教育が受けられる」といえるだろう。
また、教育内容のほかにもさまざまなメリットがあると、安田氏は言う。
「公立中高一貫校は教員が公募制のことが多いので、意欲の高い先生が集まりやすくなります。また、私立に比べて生徒の多様性があると言えるでしょう。学費が安いということは、それだけさまざまな背景を持った生徒が入学してくるということです。それを良しと受け取るかどうかは、ご家庭の方針によりますが、これからの時代を力強く生き抜くためには、多様性に柔軟に対応できる力というのは不可欠だと思います。ただ、お子さんに合った環境はそれぞれですので、性格、個性に合わせて選んであげてください」
では、デメリットはあるのだろうか。「あえていうなら、生徒指導面」と安田氏は言う。
「生徒指導、つまり、生活習慣や行動面、宿題の管理など学習の基盤となる部分への指導は、中学校では重視されていますが高校ではあまりやりません。公立中高一貫校ではもともと高校の教員だった先生が多いので、生徒指導をあまりやったことのない先生がいるというのは、弱点といえるかもしれません。ただ、公立中高一貫校に入学するような生徒は、そういった基盤はできていることが多いので、大きな問題ではないでしょう。それよりも大きいのは、お子さんがその学校に合わなかった場合や友だちとうまく行かなかった場合、6年間ずっと同じメンバーで過ごさなければならないということです。ただ、これは私立へ行っても同じことですので、国私立にせよ公立にせよ、中学受験を考えていらっしゃるご家庭では心に留めておいていただきたいと思います。また、公立ですから先生の移動があり、卒業後に母校を訪ねても知った先生がいないということもあります」
後編では、気になる「受検」事情や親ができることについて、引き続き安田氏に伺う。

安田 理

安田教育研究所代表。東京都出身。早稲田大学卒業。大手出版社にて雑誌の編集長を務めた後、受験情報誌・教育書籍の企画・編集にあたる。その後、教育情報プロジェクトを主宰し、幅広く教育に関する調査・分析を行う。2002年、安田教育研究所を設立。講演・執筆・情報発信、セミナーの開催、コンサルティングなど幅広く活躍中。日本経済新聞、朝日小学生新聞、「進学レーダー」、「サクセス15」、ベネッセ「教育情報サイト」、サイエンス倶楽部など各種新聞・雑誌、WEBサイトにコラムを連載中。著書に「中学受験 わが子をつぶす親、伸ばす親」(NHK出版)、「中学受験 ママへの『個別指導』」(学研)などがある。

文/笹原風花 撮影/荒川潤