2017.10.18

こどもの可能性を拡げる情報

個性を磨き上げるオーストラリアの初等教育

世界の学び/個性を伸ばし自己肯定感を高める

世界の教育情報第17回目は前回に引き続きオーストラリアからのレポートです。前回は移民大国としてのオーストラリアの英語教育事情をご紹介しましたが、今回は学力面ではなく、こどもたちの精神力や内面を育てる教育に迫ります。
日本政府が日本と諸外国の満13~29歳の若者を対象に実施した意識調査によると、日本は諸外国に比べて、自己意欲やチャレンジ精神が極端に低いことが浮き彫りになりました。自分自身に満足しているという自己肯定感は、諸外国が70%を超える中、日本は半分にも満たない45.8%という結果に。日本のこどもたちに欠けている、自己肯定感やチャレンジ精神はどうすれば高まるのか、オーストラリアを例にご紹介していきます。

3歳から始まる
「発表」が自己表現力の鍵に
オセアニアを含む欧米社会の人々は一般的に、人前でのスピーチやプレゼンテーションが得意だといわれています。政治家や企業のトップはもちろんのこと、一般の人でさえ、堂々とした表現力の高いパフォーマンスで見る者を惹きつけることに優れています。彼らは大勢の聴衆を前にしても緊張することはないのか、どのような訓練をすればスピーチが上達するのか、社会人になって初めて人前でプレゼンテーションをする機会が増える日本人から見ると疑問は尽きません。こどもを通してオーストラリアの教育に触れるうち、それらの答えは3歳から始まる「発表」の時間にあることに気づきました。
オーストラリアでは、就学前のこどもたちが通う幼稚園や託児所で週1回『ショー・アンド・テル(Show and Tell:見せて話す)』と呼ばれる発表の日があります。お気に入りのおもちゃを持参して人前で話す訓練をする時間ですが、初めから長い文章を話せるこどもはごくまれです。ほとんどのこどもがおもちゃを見せながら、「わたしのお人形」「ぼくの車」などと一言発するだけで口を閉ざしてしまいます。ここで先生たちが「そのおもちゃはいつ買ってもらったの?」「誰に買ってもらったの?」「どういうところが気に入ってるの?」など簡単な質問を投げかけることで、こどもたちの言葉をうまく引き出していくのです。このスピーチの練習は3歳から始まり、段階を踏みながら、その後の学校生活の間ずっと続いていきます。
初等教育1年目の準備学級になると、毎週決められたテーマで全員が発表するようになり、自宅での事前準備も必要になってきます。また、この頃から、発表後に質疑応答の時間が設けられるようになり、発表テーマに対する深い理解だけでなく、さまざまな質問に対して即座に返答する対応力や、自分の意見を的確に伝える能力が求められるようになってきます。
初等教育3年目となる小学2年生以降は3カ月間かけてのプロジェクト形式の発表へとステップアップします。オーストラリアの先住民である「アボリジニ」や「世界のお祭り」など、一つのテーマに基づきリサーチをしたうえで、発表をよりわかりやすくサポートする道具として模型をつくったり、パワーポイントで投影資料をつくったりするなど、高度な発表が行われるようになります。このように年齢に応じたテーマの発表を継続して行うことで、人前で発表することへの緊張感がなくなり、スピーチの技術や自己表現力が自然に身についていくのです。
小さな達成の積み重ねが
自己肯定感を生み出す「表彰制度」
オーストラリアでは先生が一方的に話す授業は非常に少なく、こどもたちの意見が飛び交う参加型の授業が主体となります。どの授業においても、こども一人ひとりの質問や意見を尊重することで、自己肯定感や積極性などの内面的な成長を促しています。移民の国ならではの人種の多様さもメリットとなっており、こどもたちはお互いのバックグラウンドや文化、個性を尊重することにより、他者への偏見が比較的少ない社会をつくりあげています。
オーストラリアの小学校では個々への評価も大切にしています。小さくても、何かを「達成した」ことを表彰する機会を多く設けることで、こどもの意欲や向上心維持に努めています。学校により評価の対象は異なりますが、一般的には1学期間の宿題達成や授業中の態度、各教科での成績や取り組みのほか、クラスや学校で行われる行事への貢献度などがあります。これらを達成する度にメリットカードと呼ばれる小さなカードが担任や各教科の先生から渡されます。そのメリットカードを5枚集めると学校集会や朝礼などで学校長から表彰状を授与され、さらにその表彰状を5枚集めるとプラチナ、金、銀、銅のメダルが授与され、保護者を招待しての盛大な授賞式も行われます。
この表彰制度のポイントは、少し努力すれば誰もがメリットカードを手に入れられることです。もし評価の対象が学業だけだったら、少し頑張れば要領よくこなしてしまうこどもがいる一方で、人の倍時間がかかってしまうこどもがいるなど、学力の差が影響し、表彰される子にも偏りが出てしまいます。また、なかなか手に入らない難しいことだけを評価の対象に設定してしまうと、表彰されるまでの道のりが長くなり、途中で挫折してしまう可能性も高くなります。
メリットカードや表彰状の授与といった小さな賞賛を積み重ねていくことが、学校生活のさまざまな場においてこどもたちの意欲の原動力になり、継続する力、達成感や自信、自己肯定感などといった内面の強化につながっています。
やりたいことを見つける力を育てる
「選択制度」
オーストラリアの初等教育では、自分の好みや物事に対する得意不得意が明確に表れるようになってくる初等教育4年目の小学3年生から、選択授業や希望制の特別授業が始まります。代表的な選択授業である体育では、一般体育のほかにテニスや水泳、サッカー、クリケット、ネットボール、タッチラグビーなど集中して取り組みたいスポーツを一つ選ぶことが可能になります。また希望制の特別授業では、コンピュータープログラミングや外国語、楽器のクラスなどを選択することができ、興味の拡大や秘めた能力の開花に向けた支援が行われています。
このように選択肢を多く与えることは、自分の選択に責任を持つことを学ぶまたとない機会であり、自分に合うものをいち早く見つけ出すチャンスにもなっています。
小学生に与えられた選択の機会の中で、最も頭を悩ませるのはハイスクール(中学・高校の一貫校)選びといって間違いないでしょう。公立校だけでも受験が必要な特別校のセレクティブハイスクール(Selective High School)と一般校の大きく2つに分かれています。さらに一般校は、共学、男子校、女子校に分かれ、その中も普通クラスと高学力保持者のためのギフティッドクラス(Gifted Class)に分かれています。このほかに、スポーツクラスや芸術クラス、演劇クラス、音楽クラスなど専門分野に特化したコースを併設する一般校も多数あります。
また、カトリック系などの私学校に進学するこどもも大勢いることから、同じ小学校から同じハイスクールに通うのはわずか数名といわれるほど選択肢が広いことで知られています。この選択肢の多さこそが自分の能力や興味に合うハイスクールを選ぶチャンスであり、初等教育から高等教育へのスムーズな学習接続の鍵となっていると言えるでしょう。
人前でのパフォーマンス力を伸ばす「発表」や、小さくても成果や努力を評価し自信を育む「表彰制度」、やりたいことや興味のあることにチャレンジする機会を与える「選択制度」、この3つの教育システムこそが、こどもたちの意欲やチャレンジ精神を引き出し、自己肯定感の高いこどもを育てているのではないでしょうか。
参照URL(日本内閣府):http://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/h26gaiyou/tokushu.html

MF

グローバルママ研究所リサーチャー。2003年に来豪。
日本で外資系製薬会社の秘書として勤務後、オーストラリアではメディア企業に従事。
家族はオーストラリア人の夫と8歳・11歳の息子二人。


グローバルママ研究所

世界33か国在住の170名以上の女性リサーチャー・ライターのネットワーク(2017年4月時点)。企業の海外におけるマーケティング活動(市場調査やプロモーション)をサポートしている。