2016.12.21

こどもの可能性を拡げる情報

絵本を通じて“多様性”に触れる

こどもにグローバル社会の扉を開く海外絵本の魅力

こどもに向けて、どんな絵本を選んでいますか? うちの子はこういう本が好きだから…と無意識のうちに決め込んでいませんか? 「絵本はこどもに新しい世界を提供する最高のツール。先入観を取り払って、いろいろな国の絵本を見せてあげてほしい」と熱弁を振るうのは、絵本の翻訳出版を行う株式会社ワールドライブラリーの林佑次さんと岩永梢さん。こどもの成長においてグローバルな絵本が担う役割や、海外の絵本を読み聞かせるメリットについて、お話を伺った。

絵本にはその国の
文化や価値観が凝縮されている
 書店で児童書のコーナーを覗くと、ママ世代が小さい頃に読んだ絵本がたくさん見つかるはずだ。懐かしさを感じ、「ママもこどものときに読んだ本だよ」とこどもに読み聞かせをする人も多いだろう。
「世代を超えて読み継がれてきた絵本は、確かに名作揃いです。でも、新しく出版されている絵本のなかにも、いいものはたくさんあります。特に新作の海外絵本は、日本で翻訳出版される機会が少ないですが、ぜひ手に取ってお子さんと一緒に読んでいただきたいですね」  このように語るのは、絵本の翻訳出版を手がける株式会社ワールドライブラリー常務取締役を務める林佑次さん。同社は、海外の出版社との直接契約によって版権を取得し、世界の絵本を翻訳・出版している出版社だ。欧米をはじめ南米やアジア、オセアニアなど30か国の出版社と契約し、すでに約90冊の絵本を出版している。
 なぜ海外の絵本にこだわっているのかをお聞きすると、「絵本というツールを通じて日本に住むこどもたちに海外の文化を届け、世界を知るきっかけを得てもらいたいからです」との答えが返ってきた。
「こどもが海外の絵本を開けば、日本とは違う風景や食べ物、インテリア、色彩感覚などが目に飛び込んでくるでしょう。登場人物の髪の毛や肌の色、服装なども、自分とは違うことに気づくはずです」
 さらに、日本とは違う感性や文化に触れることができるのも海外絵本の魅力といえる。例えば、同社から出版されている『ABCのゆめみてる』というイギリス発の絵本は、イラストと詩を楽しみながら、アルファベットを身近な英単語とあわせて覚えていけるスタイルの絵本だ。ただし、AはAngel(天使)、CはClown(ピエロ)といった単語とともに紹介されているのがイギリスの絵本ならではだ。アルファベットと英単語をセットで取り上げる絵本は日本にもあるが、AはApple、CはCarなどの英単語がピックアップされることが多い。ちょっとした違いに文化の違いが垣間見えるのが、この絵本の楽しさだ。
「『違うのは当たり前なんだな』と幼いうちから知ることが、グローバル感覚の醸成につながると私たちは考えています」(林さん)  もちろんこどもだけでなく保護者も、「多様性に目を向ける」という視点で海外の絵本に触れてみると、ストーリーやイラストだけではない楽しみ方ができるはずだ。
書店で選ぶだけでは
多様な絵本に出合えない?
 では、世界中で毎年出版される膨大な絵本のなかから、翻訳出版するものをどのようにセレクトしているのだろうか。ワールドライブラリーで広報と営業を担当する岩永梢さんは、選書のコンセプトについて次のように語る。
「その国ならではの文化や生活習慣、価値観などがわかる絵本や、日本ではあまり見られない仕掛けをもつ絵本や飛び出す絵本は、ぜひこどもたちに見てもらいたくて選んでいます。ストーリーのテーマとして多様性や個性について扱っているものも、積極的にピックアップしています。ヨーロッパの国々だけでなく、韓国やメキシコ、南アフリカ、イスラエル、インド、トルコなど、できる限り幅広い地域の絵本を紹介することにこだわっています」
 そして、絵本の装丁や版型、書体などは、極力原書に近づけることを心がけているそうだ。 「その絵本を読んで育った子が、成長して海外で再び出合うこともあるかもしれません。また、海外の友だちができた時に、『あの絵本は自分もこどもの頃に読んだよ』という共通体験があればお互いの理解がぐっと進みますよね。できるだけ同じモノを思い浮かべてもらうために、原書に近いビジュアルをめざしています」(岩永さん)
 実際にワールドライブラリーで出版された絵本を開くと、日本人にはあまりなじみのない動物のキャラクターに驚いたり、新鮮な色づかいに引き込まれたりして、時間が経つのも忘れて見入ってしまう。
また、「他人と違う個性があるのはステキなことなんだよ」という強いメッセージをもつ絵本も多い。例えばフランス発のストーリー絵本『ぼくは青ねこ』は、青い猫が主人公。他の猫と違う色をしていることから周りに嫌われてしまうが、長い旅の末に自分を愛してくれる赤毛の女の子と出会う。キュート過ぎない青猫のキャラクターも相乗効果となって、爽やかな感動を呼ぶ一冊だ。
トルコ発の『ちがうけれど、いっしょ』とは、「違い」についてさらにストレートに訴えかけてくるストーリーだ。主人公の子ヤギは生まれつき足が不自由だが、ヤギ飼いに作ってもらった歩行器をつけて野山を走り回り、やがて成長して家族をもつ。作者は違いを障害ではなく個性ととらえ、「どんな困難もみんなで分かち合えば超えられる」というメッセージを送る。
 そして気づくのは、同社の絵本はいずれも、書店でふだん見かけるものとは大きく異なっているということだ。その理由として林さんは、日本における絵本の販売事情を挙げる。
「インターネット販売が普及したこともあり、売り上げ不振に悩む書店は増えています。
そのため絵本コーナーでも、確実に売れる本を中心に置くようになってきています。具体的に言うと、数十年にわたって重版を重ねてきたロングセラーか、テレビアニメのキャラクター絵本ですね。それ以外の絵本のなかにも良質な作品はたくさんあるのですが、書店で目立つ場所に置かれる機会は減っています」
海外の絵本を通じて
興味の幅が拡がる
 つまり、私たちがよい絵本をこどもに与えたいと思って書店で探しても、気づかないうちに選択範囲が狭められている場合もあるのだ。林さんたちも、「書店売りという形だけでは、自分たちの絵本をこどもたちに届けられない可能性がある」との判断から、レンタルサービスという手法を取っている。幼稚園や託児所、歯科医、小児科、カーディーラー、レストランといったこどもの集まる場所にワールドライブラリーの絵本をまとめて設置し、定期的に絵本を交換してレンタル料を回収するというビジネスモデルで展開しているのだ。こどもたちは待ち時間に、世界の絵本を手に取って楽しめるというわけだ。
 さらに同社では、さまざまなオフィスにも絵本を設置し、そこで働くワーカーが絵本をレンタルして自宅に持ち帰れるようなサービスも行っている。このサービスを利用するあるワーキングマザーからは、次のような声が挙がったという。
「その方がお子さんに弊社の絵本を何冊か見せたところ、『乗り物絵本が好きだと思っていたのに、今まで買い与えてきたものとはまったく違う絵本に興味を示したので驚いた』という感想をいただきました。ワールドライブラリーの絵本を通じてお子さんが興味の幅を拡げたり、保護者の方がお子さんについて理解を深めて下さったりするのは、本当にうれしいですね」(岩永さん)
 絵本はこどもにとって、新しい世界を知るきっかけになる。図書館やレンタルなども活用し、今まではあまり目が向かなかった海外の絵本にも手を伸ばしてみてはどうだろう。
読み聞かせにルールはない
家族みんなで楽しい時間を
 さて、こどもと絵本との関わりで外せないのが、保護者による読み聞かせだろう。その際に、「長いストーリーだと面倒に感じる」「こどもが『これ何?』と質問ばかりしてどんどん脱線してしまう」など、ちょっとした悩みをもつ人は少なくない。読み聞かせのポイントについて、岩永さんに伺ってみた。
「基本的には、寝る前など毎日の生活に読み聞かせの時間を組み込むのが一番です。習慣化することで、こどもの成長や変化に気づきやすくなります。長いストーリーなら1日1ページで区切るとか、きりのよいところで続きはまた明日、としても大丈夫です。質問が多いのはその本に出てくる言葉、あるいはストーリーがまだ少し難しいのかもしれません。もう少し低年齢向きの絵本を選んでみてはどうでしょうか。読み聞かせにはこうしなくてはいけないというような決まりはありませんので、無理のない楽しい方法を見つけて続けていただければと思います。
逆に、自分の興味を引くものが出てきたら『ママはこれが好き』などと語りかけてみるのもいいかもしれません。読み聞かせの時間が素敵なコミュニケーションの時間になるといいですね」
 読み聞かせはママが行うケースが多いが、林さんは「できる限り、他の家族も読み聞かせを担当してほしい」と提案する。
「実際に北欧やアメリカでは、パパが読み聞かせを行うことが多いんです。同じ本でも、読んでくれる人によって印象が変わり、こどもにとって新鮮な体験になります。パパにとっても、こどもとコミュニケーションを深めるよい機会になるはずです」
 一冊の絵本をきっかけに、こどもは未知の世界の扉を開き、家族の時間はもっと楽しいものになる。だからこそ、親子でたくさんの、多様な絵本に触れる機会をつくっていきたい。

☆クリスマス オススメ絵本☆

『クリスマス・イブはおおさわぎ』
絵本の内容はこちら

株式会社ワールドライブラリー

「絵本を開くと、世界が開く。」をキャッチフレーズに、30カ国以上の絵本を翻訳出版し、レンタルサービスの形でこどもたちに届ける事業を展開する。2016年度からは、厳選した絵本を定期的に個人宅に届ける「マンスリーブッククラブ」という買い切りサービスも開始。各国大使館との共催によるリーディングイベントや、読み聞かせとハンドクラフト教室を組み合わせたワークショップなども精力的に開催している。

文/横堀夏代 撮影/曳野若菜