2016.3.3

こどもの可能性を拡げる情報

TEDxKidsが拡げるこどもの可能性

知的好奇心が未来への力になる

「さまざまな人やモノ・コトにふれる機会が増えれば、こどもの未来は変わります。そのための環境をつくるのは大人です」。このように語るのは、「こども」をフィーチャーした講演会「TEDxKids@Chiyoda」の運営を手がける青木竜太さん。講演会の特色や開催の経緯などを通して、こどもの可能性を拡げるために大人ができるサポートなどについてお話をうかがった。

観客は8~12歳
登壇者は小学生から高校生の講演会
「TED Conference」という講演会をご存じだろうか。「価値あるアイデアをシェアする場」としてカナダで毎年行われている国際規模の講演会で、学術やエンターテイメントなどさまざまな分野の登壇者によって独創的なプレゼンテーションが展開されている。TEDxというライセンスプログラムの開発によって世界中で開催されるようになり、2009年からは日本でも「TEDxTokyo」として行われている。
ここにボランティアメンバーとして参加し、活動に携わっていた青木竜太さんはその後、子ども向けたTEDxの「TEDxKids」を実現させた。こどもを前面に押し出したTEDxKidsは、2011年を皮切りにこれまで4回開催され、会を重ねるごとに反響を呼んでいる。
「『未来をつくるこどもと、こどもの環境をつくる大人に、価値あるアイデアを広める』というコンセプトで企画・運営を行っています。観客として参加するのは主に8~12歳のこどもとその保護者、登壇するのは中高生が中心です。ダンスなどのパフォーマンスやモノづくりワークショップなどもプログラムに組み込み、さまざまな方向からこどもの知的好奇心に働きかける会をめざしています」
現在の活動を始める前は、コンピュータプログラマーとして忙しい毎日を過ごしていたという青木さん。そもそもどんな経緯から、TEDxTokyoに携わるようになったのだろうか。
「仕事はとても充実していたのですが、徹夜も休日出勤も当たり前という生活を送るなかで、深刻な病気に見舞われました。場合によっては、余命数か月を覚悟せざるを得ない状況でした。検査結果を待つ数週間は仕事を休み、当時8歳の息子と4歳の娘と遊んだりして過ごしたのですが、こどもがふとした瞬間に、『パパと過ごす時間が幸せ』と言ってくれて。その言葉を聞いて、その言葉を聞いて、こどもたちにもっと接したい、もっと自分が知っていることや経験したこと、世の中にあるワクワク感やドキドキ感をもっと伝えていきたい、と思ったんです。こどもの未来に役立つ活動をしたい、と強く感じました」
その後、治療の甲斐あって元気な身体を取り戻した青木さん。こどもの未来に役立つ活動を模索するなかで思い出したのは、ご自身の小学校時代だったという。
「うちではケーブルテレビを観ることができて、学校から帰るといつも『ディスカバリーチャンネル』に釘付けになっていました。学校の教科書には出てこない雄大な自然の姿や民族の暮らしぶりを観ていると、ワクワクして時間を忘れました。小さいながらも知的好奇心を刺激されたのだと思います。TEDxが東京で開催されると知った時、小学校時代のような高揚感が甦ってきたんです。将来的に、例えば小学生を対象としたTEDxを開催できれば、こどもたちはさまざまな世界にふれながら興味の対象を拡げてくれるのではないか、その積み重ねが将来の可能性をつくるのではないか、というビジョンが浮かびました」
こうして青木さんはTEDxTokyoの活動に関わり始め、2011年に日本で初となるTEDxKidsを開催。全体統括に加えて、登壇者のオーディションやコーチングなどを手がけている。
行動力・共創力・表現力が
今後の社会で求められる創造性の源に
TEDxKidsの活動で青木さんたちスタッフが力を入れているのは、登壇者のセレクトだ。5分枠のテレビ番組やWebのインタビュー記事などにアンテナを張ったり、オーディションを開催したりして、面白そうな活動をしている人材を探すという。コンピュータプログラミングや地域活性化、バイオテクノロジーの研究など、それぞれの分野を深く究める中高生が、パワーポイントなどを駆使して堂々と、自分の考え方や問題解決のアイデアをプレゼンテーションする。
「観客のこどもたちが少しでも多くの刺激を受け、行動を変えるきっかけを得られるよう、幅広い分野から登壇者をセレクトするよう心がけています。登壇者に選出された中高生が、TEDxKidsを通していろいろな地域・分野で活動する仲間に出会い、ネットワークを拡げていく姿を見るのもうれしいですね。
TEDxKidsは、イベントとして盛り上がって終わりではなく、登壇者や参加者にとってライフチェンジングなコミュニティーをつくることをめざしています。すでに、意気投合した登壇者同士で起業したケースなどもあり、10年後に彼らがどんな活動をしているのか本当に楽しみです。聴きに来て下さる方に関しても、今後はもう少し人数を絞り、積極的に発言してもらったり、TEDxKidsの活動に参加していただいたりして、コミュニティー色をより強めていきたいですね」
登壇者に対しては、1~3か月かけてじっくりとコーチングが行われる。青木さんは対面やオンラインで1人ずつと何度も対話を重ねながら、主張したいことをよりよく伝える言葉選びや論展開のしかた、話し方などを登壇者と共に探り、1本のスピーチを完成させる。
「テーマや主張は同じでも、トピックの選び方や並べ方次第で伝わり方は大きく変わります。ですから登壇者とは徹底的に話をして、観客の感情に訴えかけるスピーチを一緒につくっていきます。コーチングのセッションを重ねるうちに、登壇者たちも『アイデアだけでなく、伝え方も重要なんだな』と気づきを得るようです。スピーチの動画はオンラインでも配信されていますが、今後はコンテンツ力をさらに強化して多くの視聴者に聴いてもらい、たくさんの人が新たな行動を起こすきっかけをつくっていければと思います」
周りから刺激を得て新しいことを始める行動力。仲間とネットワークをつくり、足りないモノを補い合う共創力。そして自分のアイデアをよりよく伝える表現力。これらは、これからの時代に求められる創造性の源になる、と青木さんは考えているそうだ。
「今後の社会においては、創造性がますます評価される時代になっていくと思います。その一方で、創造性をうまく発揮できる子とできない子が出てくる気がしています。創造性格差といったらいいでしょうか。本来、子どもは誰でも創造性の要素である表現力や行動力を持っていると思いますが、力の伸び方は環境によって変わってきます。TEDxKidsが創造性の醸成に役立つ環境となれば、これほど幸せなことはありません」
こどもの可能性を拡げるには
保護者自身が楽しむことも大切
TEDxKidsは、保護者とこどもが一緒に観客となることも大きな特徴だ。そこにあるのは、「親子の共通言語をつくりたい」という青木さんの思いだった。
「もちろんこどもたちの知的好奇心に訴えたい気持ちは強いけれど、こどもが育つ環境をつくるのは保護者なので、保護者の方に興味を持ってもらうことも重要です。例えばこどもが登壇者のスピーチから刺激を受けて行動を変えようとした時に、親御さんもその場にいれば、どんな流れから興味を持ったのかがわかるため、お子さんが新しい世界をもつサポートをしてあげられますよね。たくさんのお子さんと保護者に参加してもらうためには、東京だけでなく全国でTEDxKidsが行われることも必要です。その仕掛けとして、プログラム開催のノウハウをまとめて無料で配布しようと考えています」
ただし、こどもの可能性を拡げる方法は、TEDxKidsだけではない。「講演会やイベントに参加する以外にも、お子さんの知的好奇心を刺激する方法はたくさんあるはず」と青木さんは話す。
「例えば写真が好きな人なら、一緒に撮影をするなど、自分の好きなことにこどもを巻き込むのも一つの方法だと思います。TEDxKidsのボランティアとして会場デザインを手伝ってくれているアート好きの女性は、活動の場にお子さんを連れてきて一緒にモノづくりをしています。大人が真剣に楽しんでいる場に参加することで、お子さんはさまざまな生き様にふれることができたようです。また、自分が楽しみながらつくったモノが会場の装飾として使われているのを見て、そのお子さんはとても喜んでいました。こうした小さな自信の積み重ねは、こどもの可能性を拡げていく気がします」
「こどもの興味を引き出すにはどんなモノを見せればいい?」「どこに連れて行ったら知的好奇心がわく?」と考えることはもちろん大切だ。しかし、保護者自身が行動範囲を拡げ、一緒に楽しんで活動することも、こどもの未来を変える一石となる。
「ワクワクしながらTEDxKidsの活動を続けている僕自身の姿も、息子や娘によい影響を与えると信じています」

青木 竜太

TEDxKids@Chiyoda 創立者兼キュレーター。スタートアップを起業後、コンピュータプログラマーなどを経て、2011年共創コミュニティ創出を専門とするデザインコンサルティング、ヴォロシティ株式会社を起業。TEDxTokyo の活動にボランティアメンバーとして参画し、2011年に日本初のTEDxKidsを主催。「未来を作るこどもと、こどもの環境をつくる大人に価値あるアイデアを広める」をコンセプトに、TEDxKids コミュニティを運営。二児の父。

文/横堀夏代 撮影/石河正武