2015.7.28

WorMo’的ワークスタイル

マネジメント思考で働き方が変わる 

ワークスタイルアドバイス/管理職の視点をもつ

もっと自分らしく、自信を持って働きたいワーキングマザーに向けて、様々な専門家からのアドバイス「WorMo'的ワークスタイル」 専門家アドバイス編。マネジメント研究者であり「育休プチMBA勉強会」を主宰する国保祥子さんに、制約があっても組織に貢献できる人材になるための思考法や習慣についてお聞きしました。

インタビューアー/WorMo’編集長 河内律子(4歳児のワーキングマザー)

育休中の出会いが 勉強会開催のきっかけに
国保さんは、育休中のワーカーを対象に、育休プチMBA勉強会を開催していらっしゃいます。まずは会を始められたきっかけからお聞かせください。
実は私自身の育休中に、一人の女性と出会ったことが開催のきっかけでした。彼女は第二子出産後で、「自分自身のために経営(マネジメント)を学びたいけれど、時間的に難しい」と悩んでいました。一方、私は企業などに経営能力開発プログラムを提供する仕事をしていますが、女性の参加者は非常に少なく、発言する方もほとんどいないため、一般的に女性は経営に対してあまり興味がないのでは、と思っていたんです。だから、彼女のように学習意欲がある女性との出会いはとても新鮮で、この相談をきっかけに、今まで自分が考えていたイメージと、彼女のようなモチベーションの高い女性とのギャップを分析してみたくて、「勉強会をやりましょうか」と提案したんです。
参加者も増えて、現在は公共施設で開催なさっているんですね。私も今回の勉強会に参加させていただき、とても楽しく刺激的な時間を過ごしました。赤ちゃん連れで、授乳やおむつ替えをしながら、経営を学べるスタイルがまず新鮮でした。
マルチタスクに慣れている女性だからこそのスタイルかもしれませんね。
実際にありそうな事例について参加者同士がディスカッションを重ね、経営上の問題点や解決策を探っていく方法も面白いですね。
ケースメソッド教育と呼ばれている方法です。事例について感情をできるだけ交えず客観的にとらえ、経営視点で解決策を考えてもらいます。参加者のなかにはマネジメント側でない方も多いのですが、管理職の立場に立って考えてもらうことで、「自分は組織の中でどんな役割を求められているか」「組織に貢献するにはどう行動すればいいか」といった、俯瞰的な視点を持つきっかけになります。
経営の視点が
仕事と子育ての両立を楽にする
経営の視点を身につけることで働き方が変わる、ということですか?
マネージャー思考が身につけば職場での行動や業務に対する考え方が変わり、幸せに仕事と子育てを両立できると思うんです。というのは、ワーキングマザーは働ける時間などが限られていることもあり、がむしゃらに自分の仕事をこなそうとしてパンクすることもあります。でも、経営視点がプラスされれば、「組織から見たら、業務をこなせない自分は扱いにくい存在かもしれない」「ならば行動をどう変えたらいいだろう」」と考えるようになり、同じ時間でもより組織に貢献する働き方ができるようになります。周囲にその人の価値が認められれば、職場での居心地もよくなりますよね。それに、体力的にも楽になりますし。
他の人と意見を交わすことで、新しい気づきもたくさんありました。
ディスカッションも重要ですね。発言することで自分の意見を深められるし、自分になかった視点を発見できますから。
勉強会には、1回だけでなく何回も参加する人も多いそうですが。
回を重ねることで、経営的視点がより定着します。過去の受講者へのアンケートから、6回受講した人はほぼ全員が偏りのないマネージャー思考を獲得できていることがわかりました。実際、ビジネススクールでも、この勉強会と同じようなケースメソッド教育でディスカッションを重ねながら、じっくり思考トレーニングを行っています。ですからワーキングマザーの方にとっても、トレーニングを積んでもらうことは大切だと考えています。
その日の仕事について
客観的に振り返る“リフレクション”が重要
勉強会の話題から少し離れますが、外資系IT企業にお勤めだった国保さんが、そもそもなぜ経営の勉強を始められたんですか?
私は業務変革コンサルティングの仕事に携わっていたのですが、管理職の社員と話していて「どうしてこの人はこういう発想をするんだろう?」とわからなくて悩むことが多かったんです。そこで経営の知識を身につける必要性を感じて、ビジネススクールに通い始めました。
現在は研究職ですね。実務に戻らなかったのはどうしてですか?
経営の勉強を始めてみたら、「この知識があれば、仕事がスムーズだったのに!」と実感することばかりで、管理職以外の人が経営の知識を身につければ、もっと楽に働けるはずだと確信しました。日本における経営学は、研究と実務の間にかなり距離があります。そこを少し近づける役割を私が担えれば、と思って、研究職を選びました。
その想いが、育休プチMBA勉強会にもつながっているんですね。
そうですね。参加者が女性であるこの勉強会では特に、マネージャー思考の第一歩として、感情と事実を切り分けて考える習慣を身につけてもらうことを目的としています。先ほどもふれましたが、その習慣によって働きやすくなると思うので。
遠方に住んでいて勉強会に参加できないワーキングマザーでも、マネージャー思考のトレーニングはできますか?
リフレクション(振り返り)の習慣を持ってほしいですね。その日の仕事で印象的だったできごとについて、「どうしてうまくいかなかったんだろう?→事前に○○の準備が不足していたから」といった感じで、モヤモヤしていたことを感情を排して思考の整理をするわけです。勉強会でも、ディスカッションの後にリフレクションの時間を必ず設けています。書き出して「見える化」するとさらによいですね。
確かに…なんとなく考えていることって忘れがちですけど、概念化すれば汎用性のある思考になりますよね。
「帰宅電車ではスマホをいじらずにリフレクションする」などの習慣を決めて続けるのがコツです。少しずつでも思考のトレーニングをしていくと、行動も変わります。
ぜひやってみたいです。ところで国保さんは、普段の生活にも経営の視点を生かしたりすることってありますか?
ありますあります。子育てにも家事にも、マネージャー思考は役立ちますよ。私のブログには「もしベビ(もしマネジメント研究者がベビーをもったら)」というタグがあるので、詳しくはそちらをご覧下さい(笑)。
イベントレポート
育休プチMBA勉強会
6月11日、東京・池袋のコミュニティースペース「ママコロ」で、「育休プチMBA勉強会」が開催されました。勉強会スタートの30分ほど前から、赤ちゃん連れのお母さんで会場が少しずつにぎやかに。カーペット敷きの会場の一角では、おむつを替えたり、授乳をしたりする姿もみられます。5~6名ずつのグループに分かれてテーブルに着いた育休中のママたちは、ほとんどが初対面同士ですが、早くも保育園の話題などで盛り上がっています。飛び入り参加した河内編集長も、先輩ワーキングマザーとして楽しく話に加わりました。
11時からいよいよ勉強会がスタート。この日の題材は、あるコンビニエンスストアでのスタッフ管理問題です。ファシリテーター(司会者)の声かけにあわせて参加者は資料を読み込み、まずはグループごとにディスカッションが始まりました。どんどん意見が飛び出し、トピックが書かれた付せんでテーブルがみるみる埋まっていきます。
続いてグループごとの意見をまとめて発表する場でも、スタッフ管理に関することだけでなく、店舗の設備投資や営業時間に関するものまで、多様な視点からの発言がみられ、参加者は真剣な表情でメモをとっています。ファシリテーターが発言を促さなくても、次々と手が挙がります。
和やかにディスカッションが続くなか、ファシリテーターの山脇さんが「ところで、この店の本質的な問題ってなんでしょう?」と問いを投げかけました。議論が進み、細部の問題に参加者の関心が流れつつあるのを見て、方向性を変えようとしたわけです。
実は山脇さんをはじめ、運営スタッフの多くはもともとは勉強会受講者で、数か月後に育休からの復職を控えています。運営側に回ることで、より仕事の場面に近い実践的な経験ができるのも、この勉強会のメリットです。今回、初めてファシリテーターを務めた山脇さんは、司会進行の経験は、復職後にも役立ちそうだと話してくれました。
「職場では、新人教育に携わっていたので、人前で話すことには慣れていたはずなんです。でも久しぶりにこういう場に立ってみると、なかなか言葉が出てこなくて…。だから、発言の内容をまとめたり、議論の方向性をその場でつかんだりすることで、育休中のブランクを少しでも埋めることができてありがたいです」
再びディスカッションが行われ、課題解決の方法をそれぞれのグループが発表。泣き出した赤ちゃんをあやしながら言葉をつなぐママもいましたが、他の人の発言をしっかり把握したうえで意見をまとめています。
続いて国保さんから「問題発見思考について」というテーマで特別にレクチャーがあり、今日の議論のリフレクション(振り返り)を行って勉強会は終了。
続いてのランチタイムでは、受講者同士がざっくばらんにコミュニケーションを深めました。勉強会の感想を聞いてみると、「自分の仕事をマクロな視点で見るきっかけができた」「『復職後も頑張りたい』というモチベーションを持った人が集まっているから、一歩踏み込んだ話ができてうれしい」などの意見が寄せられました。またマネージャー職の受講者からは、「部下とはよくコミュニケーションを取っているつもりだったけれど、自分の考え方のクセを押しつけていたかも」といった声も。2時間の勉強会で、ママたちはさまざまな気づきを得たようです。
運営チームの事前ミーティング。育休プチMBA勉強会では、「勉強会で学んだマネジメント思考の実践の場」として、参加者が運営も担うスタイルで進められている。

国保祥子

育休プチMBA代表。経営学博士。静岡県立大学経営情報学部講師、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科非常勤講師。外資系IT企業での業務変革コンサルティング経験を経て、慶應ビジネススクールでMBAおよび博士号を取得。エーザイ株式会社、JA全中、静岡県庁、石川県庁、インキュベーションオフィス等の経営人材育成プログラムの開発および導入に従事。Learning Communityを使った意識変革や行動変容を得意分野とする。2011年に地域の社会人と学生が共に地域の課題を検討する「フューチャーセンター」を、2014年に育児休業期間をマネジメント能力開発の機会にする「育休プチMBA勉強会」を立ち上げる。1歳児の母。

取材を終えて

私は、育児休暇中慣れない育児に追われ、自己啓発としてなにかに取り組むという余裕はなかったように思います。しかし今回、『育休プチMBA勉強会』に参加させていただき、参加者の意識の高さ、鋭いビジネス思考に触れることができ、ビジネス感覚を取り戻す、もしくは維持するためには、とてもよい機会だと思いました。何よりもバックボーンが異なる(異なる業種・企業の)方々との議論は、新しい思考を得るチャンスにもなります。 育児に没頭するとビジネス思考がよく停止しますが、育児にリズムができたとき、復帰のことを考える時期、そして自分に少し余裕ができたときには、復帰の準備として、また自分を奮い立たせる選択肢の一つとして、こういった勉強会に参加することもよいと感じました。(河内)

文/横堀夏代 撮影/清水友成