2018.10.12

WorMo’的ワークスタイル

徹底リサーチで「女性活躍」を多角的に支援

ダイキン工業による女性活躍推進事例

空調機の世界的メーカー、ダイキン工業株式会社では、2011年にトップ発信のもと立ち上がったプロジェクトで「女性活躍推進」にフォーカスした取り組みを展開、その効果は数字に如実に現れている。現在まで行ってきたさまざまな施策について、人事本部ダイバーシティ推進グループ・担当課長の野間友惠さんにお話を伺った。

2011年、トップ直轄で「女性活躍推進」
本格プロジェクト始動!
企業経営において「ダイバーシティ」の概念が日本国内で注目されるようになったのは2000年以降のことだが、ダイキン工業では創業以来、「一人ひとりの成長の総和が企業の発展の基盤」という信念をベースに、「人」こそ企業の競争力の源泉とみなし、一人ひとりが持っている能力を最大限に発揮でき、多様な個性が尊重される風土づくりに取り組んできた。とりわけフォーカスしたのは「ベテラン層」「障がい者」「女性」「外国籍社員」の4カテゴリーだ。
しかし、このうち「女性」の活躍推進については遅れを取っている現状があった。「ベテラン層や障がい者については他社に先駆けた取り組みを行ってきたのですが、女性については人事本部中心に制度改定をメインに女性活躍推進の取り組みは進めてきたものの、全社的に大きな変化を起こすところまでは踏み込めていませんでした」と語る野間さん。
当時、「従業員に占める女性比率」「管理職に占める女性比率」ともに製造業界の平均をも満たせていなかったのだ。いかにして女性社員の割合を増やし、管理職になりうる女性を育成していけるかが、いちグローバルメーカーとして問われていた。
時代も移り変わり、従来のように機器を販売するだけでなく、イノベーションを起こし、新しいビジネスを創出できる企業へと転換していかなければならない。そのためには、独創性あるアイデアを生み出せる多様な人材の確保は待ったなしと判断。4カテゴリーの中でも対策が遅れていた「女性」にフォーカスしようと、トップ発信のもと、全社的な「女性活躍推進プロジェクト」が立ち上がった。
約50名へのヒアリング調査で見えてきた
男性管理職と女性社員それぞれの課題
経営トップ直轄で立ち上がった新プロジェクトには女性6名がアサインされ、野間さん(当時は一般社員)もその一人だった。
まず取り組んだのは社内のヒアリング。「女性の部下を持つ管理職と女性社員を対象に、働き方で課題に感じていること、どういった施策があれば活躍できるか、一人ひとりの声を聞いて回りました」(野間氏)。ヒアリング対象は5拠点合わせて約50名。その結果、管理職側、女性側それぞれの課題を把握できた。
「男性管理職からは、『そもそも数が少ない女性社員に対する苦手意識がある』『ちょっとキツく叱ると泣かれてしまった』『せっかく育成しても結婚・出産で辞めてしまうケースが多い』など、そもそも女性に対する期待や長期的視点で育成しようという意識が希薄。また、『時間に制約がある子育て女性には仕事を任せにくい」との声も聞かれました」
女性活躍推進のメリットや必要性が現場レベルでは腑に落ちていない印象だった。
一方の女性社員はと言うと、「結婚、出産、専業主婦、パート…働き続ける以外にも人生の選択肢が多いため、どうしても仕事が『短期思考』になりがちです。若い女性からは、子育てしながらキャリアアップしている女性が身近に少ないので将来への不安が大きい、今後のキャリアが描きにくいという声も。女性管理職が一人もいない部門や事業場もあったため、女性管理職は限られた人しかなれないものと考え、管理職・リーダーへのチャレンジに消極的であることがよくわかりました」(野間氏)
先進事例を学ぶため
海外企業約20社を訪問
この「女性活躍推進プロジェクト」の本気度が伺えるのが、先進他社事例をリサーチしたのはもちろんのこと、その矛先を国内企業のみならず海外にも向けたことだ。アメリカ、ヨーロッパ、アジア、オーストラリア、合わせて約20社に実際に足を運び、どういう施策を講じているのかヒアリングしたのだ。そのすべてをヒアリングした野間さんいわく、「海外の先進事例を目の当たりにして、日本は制度的にも女性の意識の上でも『15~20年遅れている!』と感じましたね」
社内・国内外企業を対象とした丁寧なヒアリングで明らかになった課題をプロジェクトメンバーで検討、ダイキン工業の実態に即した具体的な施策に落とし込んでいった。「各事業場に女性活躍推進についての施策を説明しに回ったのですが、まだ現場はピンときていないという印象でしたね」と野間さんは当時を振り返る。
男性管理職にも必要な「意識改革」
「男女の違い」にも着目
まずは「女性が働き続け、仕事の中で成長していくこと」への意識改革が女性自身に必要と考え、最初は講演会や取り組みの説明会を開催した。ダイキン工業の社外取締役でもある寺田千代乃氏(アートコーポレーション代表取締役)や黒田由貴子氏(ピープルフォーカスコンサルティング社取締役)を迎え、全女性社員向けに講演をしてもらった。
また、女性が活躍するためには、上司にあたる管理職・リーダーの意識改革なくしてその土壌はつくれないと考え、男性管理職・リーダー向けの講演会や説明会、研修なども開催していった。女性にとってロールモデルがいないから将来のキャリアがイメージしにくいように、男性管理職の側も、部下の女性を長期育成してきた経験が少ないのだから、地道な「意識改革」の働きかけが重要となってくるのだ。
2016年からは「男女の違い」に着目したプログラムを意識改革研修に取り入れている。脳のつくりに起因するもの、社会環境・文化・組織のなかでつくられるもの含め、男女間に存在するそもそもの違い、それゆえの男女の行動特性の差異を解説するのだ。
「ある研究では、女性は自分の能力を過小評価しがちという傾向があり、仕事に対し、男性は60%の自信があれば引き受けるが、女性は100%の自信を持てないと引き受けないいう結果が出たそうです。また、突出することを避ける傾向もあるともいわれています」(野間氏)。
こうした男女の違いを傾向として把握すると、それらを踏まえたうえでの対応に考えを持っていきやすくなる。例えば、仕事の依頼に対し、女性が一回遠慮がちに『ノー』と言っても、もっと積極的に背中を押すことが大事だとアドバイスするようにしているという。
女性を計画的に育成し、管理職増へ
アメリカで学んだ「女性フィーダーポジション」のしくみ
女性管理職の育成を加速する、この大きな課題解決に向け導入されたのが『女性フィーダーポジション』だ。そもそもはアメリカの新聞社で取り入れられていた施策で、母数が少ない女性社員から戦略的に幹部候補管理職・リーダーを育成していきたいダイキン工業でも採用することにしたのだ。
「特定の管理職やリーダーポジション(例「営業部長」)を挙げ、ここには女性を登用していこうとあらかじめ決め、具体的に候補者を割り当てるのです。そのポジションに就くにはどういうスキルや経験が必要となるかが具体的になりますから、戦略的に育成していけます」(野間氏)
これまでは基幹職に女性を登用しようとしても「経験が足りない」となかなか登用にまで至らなかったところもあったが、長期的・戦略的に育成することで、着実に女性管理職数増につなげていくというわけだ。 「ただし、女性フィーダーポジションとして意識的に女性を育成していこうとしていますが、男性を含め複数候補者があることがほとんどです。その場合は、すべての候補者を同じように育成し、最終的に最適な人が選ばれます。必ずしも女性だから優遇されるわけではありません」と、あくまでフラットな競争を推進していく考えだ。
上司の側にもしっかり育成方針を立てることが求められる仕組みでもある。現状、女性活躍推進プロジェクトの一旦のゴールである2020年度までの計画を年単位で作成してもらっており、候補者になっていることを本人に知らせるか否かは上司の判断に任せているとのこと。現在、管理職とリーダー職あわせて約80ポジションが「女性フィーダーポジション」の対象となっているから、今後さまざまな地位・部署で活躍が期待される。
出産・育児をキャリアブレーキにしない
仕事のブランクはなるべく短く!
出産・育児といった女性ならではのライフイベントについては、育児休暇期間を延ばすのではなく、少しずつでも働き続けることで能力を向上させキャリアアップしていけるよう支援する、というのがダイキン工業の基本姿勢。「出産・育児がキャリアブレーキにならないように」をベースに施策を強化させてきた。その結果、女性社員1,363名中、子どもを持つ女性は488名(37.6%)とその割合は着実に増えている(数字は2017年度)。育児休暇取得者の職場復帰率は100%だ。
「近年、弊社が力を入れているのが育児休暇からの『早期復帰』です。これはブランクが長引くほど仕事感覚が戻るのに苦労する、技術に追いつくのが大変、その分活躍が遅れる、と育休経験者からの声があったから。また、職場も上司も早く復帰してくれると助かる、という声も多くありました。そこで、早期復帰をしようとする人に対してはプラスの支援をし、キャリアブランクを最小にしながら仕事に打ち込み、会社に貢献し成長を求め続ける人を最大限支援しています。法律等の違いも大きいですが、欧米では産休・育休は3ヶ月間程度で職場復帰する人が多いですし、“1年間の育休”だけでなく、様々な選択肢を増やしたということです」
生後1年未満で復帰する人にはプラスのサポートを提供、生後6ヶ月未満で復帰する人にはさらに思い切った支援策を導入している。一見、育児休暇を長く取れる方が「良い会社」と思われがちだが、逆の発想だ。
「育児支援カフェテリアプラン制度」は、ベビーシッター等外部サービス費用を年間20万円まで会社が補助するものだが、これも生後6か月未満で職場復帰する人には通常の3倍の年間60万円、1年未満で復帰する人には30万円まで補助する。「在宅勤務」についても、フルタイム勤務で小学生の子どもがいる社員は週1回(またはスポット的に)利用できるが、生後6か月未満で職場復帰する人は週4回まで認められている。 その他にも「4時間の短時間勤務」や「短時間フレックス勤務」なども。また、保育所入所支援策として各々の住む地域や事情に応じたノウハウや情報提供などを実施する保活コンシェルジュサービスも実施。これら思い切ったサポートからも明らかなように、会社としては女性に働き、能力を伸ばしながら、会社に貢献してほしいと考えているのだ。
生後1年未満で職場復帰する人の数は、2011年の9名から2017年には26名と大幅に増えている。保育所の待機児童問題も絡んでくるため思うように復帰できないケースもあるのが実態ではあるが、早期復帰者からは「仕事のブランクが少なく、社会と接点を持ち続けられるのは大変ありがたい」との声が寄せられている。
メリハリつけて働く風土が追い風に
男性の育児参画支援
男性の育児参画しやすい風土づくりも大事となってくるが、ダイキン工業にはそもそも「メリハリつけて働く」文化が根づいており、休暇が取りやすい風土が培われている。2017年度の有休休暇取得率はなんと93.5%。平成29年度国内製造業の有給休暇取得率56.2%(厚生労働省 平成29年度就労条件総合調査の概況)なのだから、ダイキン工業がいかに抜きん出ているかがわかる。
そんな風土に加え、2017年度からは子どもが生まれた男性と上司に『男性の仕事と育児 両立支援のしおり』を人事部から送付し、育児休暇の取得を後押しする運用を始めると、その年度に生まれた子どもを持つ男性の育児休暇取得率は77.3%にまで達した。国全体の男性育児休暇取得率5.14%(厚生労働省 平成29年度雇用均等基本調査(速報)と比べると、なんとも先進的な事例を作り出している。
数字に如実に現れるプロジェクトの成果
「女性活躍推進」の本格プロジェクトが始動して8年。うれしいことに、その効果は数字に如実に現れている。製造業界の平均を満たせていなかった「女性従業員比率」は、2011年の982名(12.6%) → 2018年4月時点で1363名(16%)まで伸びた。さらにこれを、当プロジェクトの一旦のゴールである2020年度末までに17%とし、製造業平均 (2015年度は15%)超えを目指している。
「管理職に占める女性比率」も2011年の20名(2.1%)から2018年4月時点で57名(5.2%)と倍増。しかし、まだまだ課題はあると野間さんはいう。「2020年度末までに100名(10%)という大胆な目標を掲げていますので、残された期間で計画的な育成をスピードアップさせていくことが目下の課題です」
2011年に6名で発足した「女性活躍推進プロジェクトチーム」も、2015年に専任組織「ダイバーシティ推進グループ」へと発展した。最近ではダイバーシティの対象に「LGBT」も加え、管理職向けの意識改革研修を開催。今後は更衣室やトイレの使い方に関する個別の配慮に着手するなど、時代とともに取り組むべきことも変化していく。
「2015年から全社的な取り組みだけでなく、部門ごとの課題に応じた取り組みも展開して、各部門に『女性活躍推進リーダー』を配置しています」と野間氏はいう。各部門の状況に応じたアクションプラン実施はより現場感を反映しており、よりスムーズな育成が実現できているのではないだろうか。近々これらの成果も現れ、製造業としてのより一層の「女性活躍」が期待される。

ダイキン工業株式会社

1924年(大正13年)創業。エアコンなど「空調事業」が売り上げの9割を占める総合空調専業企業。人と空間を健康で快適にするために、国や地域ごとに異なる文化・価値観から生まれるニーズに応え、多彩な製品とサービスをグローバル市場で展開。

文/西川由紀子 撮影/スタジオエレニッシュ 岸 隆子