2018.8.1

WorMo’的ワークスタイル

怒りに振り回されない子育て3つのポイント

アンガーマネジメントで後悔しない怒り方を習得する

子育てしていると、カッとなったりイライラしたりしてこどもに怒りをぶつけて反省……という場面は多々ある。「いつも穏やかでいるにはどうしたらいい?」と悩む人も多いのではないだろうか。しかし日本アンガーマネジメント協会代表理事の安藤俊介氏は、「怒ることは悪いことではありません。ただし怒りに振り回される子育ては、後悔を生みやすいのも事実です。でも、ちょっとしたスキルを身につければ、誰でも怒りを上手にコントロールし、叱るべきところで効果的に叱れるようになりますよ」と強調する。「後悔しない子育て」を実践するのに役立つ、アンガーマネジメントの技法をお教えいただいた。

感情に任せて怒るだけでは
しつけにならない
 アンガーマネジメントとは、怒りの感情と上手につき合うための心理トレーニングで、1970年代にアメリカで生まれたといわれる。軽犯罪を犯した人のための矯正プログラムとして開発が進んだが、時代と共に広く一般にも普及し、現在では日本でも、企業研修や青少年教育など幅広い場面で活用されている。
 さらに子育ての場面でも、アンガーマネジメントの需要が増えている。日本アンガーマネジメント協会では子育て中の保護者を対象とした講座を開催しており、毎回多くの受講者が集まるそうだ。ではなぜ子育ての場面でアンガーマネジメントが必要とされているのだろうか。安藤氏は次のように語る。
「怒りを感じるのは、必ず理由があってのこと。特に子育てでは、『社会生活上のルールを身につけてほしい』という親心から怒る場面も多いはずです。それでも、感情に任せて怒鳴るだけでは、こどもは納得感のないまま言うことを聞かなければならず、指摘したことが身につかないままになってしまいます。もちろん親御さんの側にも、『ついカーッとしてひどい言い方をしてしまった』という後悔が残ります。せっかく怒るなら、しつけにいかせる効果的な方法がいいですよね」
親が怒りに振り回されていると
こどもも怒りっぽくなる?
 またこどもの発達面からいっても、親が怒りに振り回されることはすすめられないという。なぜならこどもは親と関わる時間が相対的に多いため、親の感情表現をマネるようになるからだ。つまり親が怒りっぽいと、こどもも怒りっぽくなりやすいというわけだ。
「『怒ってばかりだとこどもが萎縮してしまうのではないか』と心配する親御さんもいらっしゃいますが、少し違います。こどもはいつも近くにいる親から感情表現の方法を学ぶため、こどもの脳に『何か要求があるときは怒れば相手に伝わる』という情報がすり込まれ、怒りやすくなるのです」
 日本アンガーマネジメント協会は、「怒りの連鎖を断ち切ろう」というキャッチフレーズで活動を行っている。親が怒りのコントロールスキルを身につけることが、こどもが怒りで失敗や後悔をしないための布石となるだろう。さらに安藤氏は、「考え方や習慣を直すことは何歳からでも可能です。怒りっぽい人でも、本人次第で変わることはできますよ」とエールをおくる。
3つのポイントを押さえれば
ロジカルな叱り方ができる
 ここからは、安藤氏が提唱する上手な怒り方のスキルを具体的に紹介していこう。ポイントは大きく分けて3つあるという。
①ルールを決めて怒る
 安藤氏が講座の受講者である保護者から話を聞くと、「場当たり的に怒っている」ことが多いという。確かに、こどもがおもちゃを片づけないときに「ある日は何も言わないけれど、機嫌が悪い日は怒る」ということはあるだろう。
「しかしこの怒り方では、こどもはなぜ叱られているかがわからず、次第に反発心を強めてしまいます。そこで、日常生活の中のさまざまなシーンに対して『これはOK』『これならまあ許せる』『これはNG(叱る)』という3段階の基準を決めておくといいでしょう。例えば片づけなら、全部一緒でもしまうことができたらOK、しまってなくても一か所にまとめていればまあ許せる、散乱ていたら叱る、といった感じです。叱る理由もセットで考え、こどもに説明できるようにしておくことも大切です」
 自分は怒ってばかりいる、と感じるなら、「まあ許せる」範囲を拡げることを心がけるとよいという。その際は、「最低限どんな状態なら許せるか」をイメージする。いろいろなシーンについて「最低限」を決めておくことで、その範囲内の行動なら怒らなくなるからだ。
 なおルールを決めるときには、母親と父親など大人の間で叱る基準を統一すること。そして、「お兄ちゃんには怒るけど弟は見逃す」といった例外をつくらないことも、こどもの納得感を高めるためには必要だという。
②具体的なリクエストを出す
「こどもを叱るのは、本来は何かしらのリクエストがあっての行動のはず。でも多くの場合、『自分の気持ちをわかってほしい』という気持ちが強すぎて、怒りが暴走してしまうことが多いのではないでしょうか」
 安藤氏が指摘するように、叱る理由は「今、改めてほしいことがあるから」だろう。にも関わらず、つい過去のことを思い出して怒りが止まらなくなったり、「ママの気持ちわかる!?」とこどもに向かってキレてしまったりするのは、保護者にとって定番ではないだろうか。
 そこで安藤氏がすすめるのは、具体的なリクエストを出すことだ。例えば食事のマナーなら、「口にご飯を入れたまましゃべらないでね」など、こどもにも理解できる形で伝えることが大切だという。「ちゃんと」「しっかり」「きちんと」というあいまいな表現を避け、こどもが実際の行動を起こしやすいよう環境を整えておくことも重要だ。
「逆に、『何で口にご飯が入っているときにしゃべるの?』と責めたり、自分の主張を強めようと『前から言っているでしょ』と追及したりするのはやめましょう。『いつも決めたことを守らない』などの表現も、『やらないときもあるのに……』と反発を呼ぶだけです」
③「事実」と「思い込み」を分ける
 こどもに感情をぶつけそうになったとき、安藤氏は「言おうとしていることを、頭の中で整理し、事実と思い込みを分類してほしい」と話す。
例えば「いつもふとんの中でグズグズしてちゃんと起きないんだから!」と言おうとしているなら、「今はまだふとんにいる」は事実、「いつも起きない」は思い込みということになる。事実と思い込みを整理することでクールダウンができ、「起きて顔を洗おうね」と具体的なリクエストを伝えられるようになるという。
「事実と思い込みを分類できるようになると、怒りをぶつけられたときの耐性もアップしますよ。例えばこどもから『ママはいつも遊園地に連れて行ってくれない、嘘つき!』と言われると、つい、『私はいつも約束を守れないダメな親……』と落ち込んでしまう人もいるでしょう。でも、その場面で事実と思い込みを分けてみると、今回は約束を果たせなかったけれど、いつもではないし、嘘をつこうとしたわけでもないと気づけます。自分を責める気持ちがなくなれば、『次は必ず行けるように、今から日にちを決めて仕事の段取りを組もう』と建設的に考えやすくなります」
それでもカッとなるときは
とにかく6秒数えてみる
 適切な叱り方を知ることで、「後悔につながる怒り」はだいぶ抑制しやすくなる。それでも、衝動的な怒りがこみ上げてくるときはあるだろう。そんなときは、頭の中で6秒数えるのが安藤氏のおすすめだ。
「怒りの感情は、脳の中心にある扁桃体で発生します。その感情が前頭葉(理性をコントロールする部分)に伝わるまでには、数秒かかるといわれています。個人差はありますが、私たちがさまざまな調査をしていくなかで、その時間がほぼ6秒だとわかってきました。深呼吸をしたり、好きな曲のフレーズを思い出したりなどの方法でも構わないので、とにかく反射的に言葉を投げず、一拍おくようにしましょう。理性が働き、怒りをコントロールできるようになります」
 怒りに振り回されなくなれば、こどもにとっても自分にとってもさまざまなメリットがある。少しずつでもいいから、アンガーマネジメントの手法を子育てに取り入れてみてはどうだろうか。

安藤俊介

一般社団法人日本アンガーマネジメント協会代表理事。アメリカでアンガーマネジメントを学び日本に導入した、アンガーマネジメントの第一人者。企業や官公庁、医療機関などでの講演・研修を通してアンガーマネジメントの普及に努める。『イライラしなくなるちょっとした習慣』(大和書房)、『はじめての「アンガーマネジメント」実践ブック』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など著書多数。著作は中国、台湾、韓国などでも翻訳され、累計30万部を超える。

文/横堀夏代 撮影/ヤマグチイッキ