2017.5.15

WorMo’的ワークスタイル

チームで仕事をしながら復職を目指す

ワークスタイル情報/地方でワクワク働く

東京や大阪では産休と育休を経て復職する女性が多いが、中規模以下の地方都市では、出産後に「働きたいけれど働けない」状況から抜け出せずに悩む人が目立つ。そんな中で、長野県上田市のコワーキングスペース「HanaLab.UNNO(ハナラボ ウンノ)」では、子育て中の女性がチーム制で仕事をするプロジェクト「ママカラ」が実施されており、再就職を目指すママが学びながら実践力をつけている。プロジェクトの意義や今後について、HanaLab.の高木奈津子さんにお話を伺った。

子育て中の女性が
自分らしく働くための場
長野県上田市の「HanaLab.」は、「地方でワクワク働ける社会づくり」というビジョンのもとにさまざまな取り組みを行う組織で、2012年にコワーキングスペースを開業したところから活動を開始。活動拠点の一つとして2015年4月にオープンした「HanaLab.UNNO」は、女性の働きやすさを意識してつくられたコワーキングスペースだ。託児所やキッチンスタジオが併設され、子育て世代が活躍する企業やフリーランスで働く子育て中の女性が多く利用している。
このスペースは、コワーキングだけでなく、復職を目指す子育て中の女性をサポートする役割も担っている。そのための仕組みが「ママカラ」だ。現在は24人の女性が所属し、こどもを併設の託児所に預けて再就職に役立つ学びや仕事にいそしんでいる。プロジェクトを立ち上げた経緯について、ママカラの企画・運営を担当する高木奈津子さんは次のように説明する。
「地方都市では首都圏に比べて職種の多様性が少なく、製造業を主産業として発展してきた上田市も同様です。そのため、多様な人材を活かす土壌がまだ十分ではなく、特に時間に制約がある子育て中の女性は、出産や育児で一度職場を離れてしまうと復職が難しいのが現状です。また、ご主人の転勤やUターンに付き添って上田に移住した女性にとっては、前職で得たスキルを活かす場も限られており、子育てを機にキャリアが断絶されてしまうというケースも少なくありません。一方で、人口減少の影響を受け企業でも人材が不足しています。より踏み込んだかたちで双方をつないでいくことで、女性も企業もチャレンジを諦めることなくワクワク働ける社会をつくりたいと考えました」
では、どうすれば地方でも、子育て中の女性でも、それを強みに変えて「ワクワク働く」を実現できるのか。もともと地方出身で、前職は、東京の人材総合サービス会社に勤務し、求人広告営業、就職マッチングイベントの企画・運営に従事した経験を持つ高木さんは、「今までにない解決法を探っていく必要がある」と感じたという。
「通常のリクルーティングでは、応募者の条件やスキルと、企業のニーズがマッチして初めて採用に結びつきます。このマッチングがうまくいかずに『採用したいけど採用できない』という企業や『働きたいけれど働けない』と悩む人を、前職でたくさん見てきました。上田市のような地方都市においても、企業が採用者に求めるものが、自身の条件やスキルと合わないことも多いため、『働きたいけれど働けない』という子育て中の女性がたくさんいます。テレワークの促進など各地で新しい取り組みも進んでいますが、既存の方法だけでは、現状の問題は解決できないと考えました」
こうして誕生したのが「ママカラ」である。ママカラは、子育て中の女性が集まりOJT方式で働いたり、研修を受けたりしながらキャリア形成をはかるための新しい仕組みだ。ママカラというネーミングには2つの意味があり、一つは「ママから始める、私のキャリア形成」といったニュアンス。もう一つは「mamacolor」という造語をカタカナ読みしたもので、「いろいろなカラー(個性)を持つママが集まり、自分らしく働けるようになってほしい」という願いが込められている。インターネットのコミュニティではなく場をつくったのも、「多様な人と交流しながら視野を拡げてほしい」という思いからだという。
まずは自信の醸成から
仕事と研修を通して自分で選択していく力を身につける
ママカラで女性たちが手がけるのは、上田市の『結婚〜子育て情報サイト』や、企業の自社メディアで記事を書くといったライティング業務が中心。それ以外にも、イベントの運営やデータ入力、UNNOに併設されるシェアオフィス利用者から受注を受けた業務補助などの仕事もある。給料は業務ごとの歩合制だ。運営側からタスクを割り振られることもあれば、やりたい仕事に自分から応募する場合もある。メンバーの女性は、さまざまな仕事に取り組みながら自分の方向性を探っていく。今後は、モチベーションの度合いに応じてさらに多様な仕事を増やしていくそうだ。
労働時間やタスクの分量についても、自分で選ぶことができる。「家族との時間を大切にしながらゆるやかに働きたい」「新しいことにャレンジしてスキルを身につけたい」など、希望に応じてワークスタイルを決められるわけだ。高木さんをはじめとする運営スタッフは、ママカラメンバーと月に2回の定例会や3ヶ月に一度の個別面談を行い、その人自身が自らキャリアを選択できるようにサポートしている。
ママカラにおける働き方の大きな特徴は二つ。一つは、チーム制で取り組むタスクが多いことだ。子育て中の女性は、こどもの急病などでイレギュラーに休まざるを得ないこともあるため、一人でリスクを抱え込まないための仕組みが工夫されている。
「チーム制の目的は、リスク回避だけではありません。補い合いながら働くことで、自分の強みに気づき、メンバー同士で学び・支え合う関係を構築してほしくてこの制度をつくりました」
UNNOの一角には、メンバー間の支え合いを象徴する光景がみられる。ここにはメンバー一人ひとりが書いた「目標設定シート」が貼ってあり、「ママカラで目指したいこと」が書いてある。シートには色とりどりの付箋がついており、ほかのメンバーたちによる応援コメントが書かれている。「仲間が書いた目標を読み、『自分はどんな手助けができるだろう?』と考えることもキャリア育成の一環といえます」と高木さんは説明する。
そしてもう一つの特徴は、研修が用意されていることだ。UNNOの業務で必要とされるライティングのスキルを身につけるための講座や、今後のキャリア設計を考えるためのライフプラン講座、任意で受けられる簿記検定対策講座など、研修の内容はさまざま。学んだスキルを活かしてOJT方式で仕事に取り組み、さらに力をつけていく。研修を導入した理由について、高木さんは次のように説明する。
「ママカラの内容を練る段階で、社会復帰を検討している約80人のお母さんと座談会を行い、仕事観などを徹底的にお聞きしました。出産や育児によってブランクができたことで不安を抱いていたり、そもそも出産前にやってきた仕事を過小評価したりする傾向が見受けられました。そこで、これから働いていく上で自信につながるスキルを身につける機会を設けることにしました」
ママカラで得たスキルを
活かして再就職を果たす人も
ママカラのメンバーとして働き始めた女性はいずれも、一度は仕事と子育ての両立で悩むという。同じ建物に託児所があって安心とはいえ、こどもの体調によっては自分のタスクをチームメンバーに託して遅刻や早退をしなければならない場合もある。自分の体調がうまく管理できなかったり、気持ちの切り替えができなかったりして混乱してしまうこともある。
「自分の状況を他のメンバーにどう伝えたらいいか、どうすればお互いに気持ちよく仕事ができるか。さまざまな課題にぶつかって悩みながらも、視野を拡げていく中で、子育てをしながら働くことへの自信をつけ、やりたいことやありたい姿を見つけていく女性が多いですね」
ママカラの開始から2年。メンバーの中には、ここでの仕事を経て地元企業に再就職した女性が約15人いる。その中には、研修の一環で簿記を学び、取得した資格を活かして会計事務所に就職したメンバーや、保育士だった人が業務で得たマネジメントや広報スキルを活かして保育園の立ち上げリーダーとして就職した例もある。「地元企業との連携やサテライトオフィスの誘致を行いながら再就職のルートをさらに強化し、個々の強みを活かすいろいろな働き方ができる仕組みをつくっていきたい」と高木さんは述べる。
「『地方に住んでいるからこそできるチャレンジできる』『子育て中だから今までにない視野が開けてこんな仕事ができる』……そんな、環境やその人の個性をプラスにできる働き方をバックアップしていきます」
HanaLab.では、ママカラで行っている人材育成の取り組みを体系化し、女性に限らず多様な人材が活躍できるモデルをつくろうとしているそうだ。地方を起点として『ワクワク働く人』が増えていくことを期待したい。
ママカラメンバーの声
金井恵満子さん
小学校の教員をしていましたが、出産を機に退職。忙しい仕事だったので、3人のこどもを育てながら復職するのは厳しいと考え、結局7年間のブランクができてしまいました。今後の働き方を模索していたところ、ママカラに出会って「子育てを大切にしながら地方でワクワク働く」というフレーズに強く引かれ、「新しい仕事にステップアップするためにHanaLab.に飛び込んでみよう」と決めたのです。
ママカラで働くようになって2年。現在はライティングチームのエディターとして、Webサイトの運営やメンバーの書いた原稿をチェックしたり、タスクの進捗管理をしたりしています。教員時代は、クラス担任として一人で仕事をすることが多く気づかなかったけれど、チームで仕事をするのは楽しいです! お互いにフォローし合いながら働いたり、メンバーがママとしてもワーカーとしても成長していく様子を見たりする喜びを、ママカラで知りました。
午前10時に3歳のこどもと一緒に出社し、託児所に預けてから仕事開始、午後3時に退社する毎日を送っています。HanaLab.に通い始めた頃は、子どもの体調や仕事のスケジュールの管理がうまくできず、自信をなくしそうになったこともありました。でも、色んな人と仕事をさせてもらう中で自分の強みに気づかせてもらうことも増え、最近やっと、子育てをしながら働く自信がついてきました。

HanaLab.(ハナラボ)

長野県上田市で、「地方でワクワク働ける環境づくり」というビジョンのもとに活動する一般社団法人ループサンパチが運営するコワーキングスペース。市内にコワーキングスペース「HanaLab.TOKIDA(ハナラボ トキダ)」と「HanaLab.UNNO(ハナラボ ウンノ)」、カフェ併設型のシェアオフィス「HanaLab.CAMP(ハナラボ キャンプ)」という3つの拠点を備え、創業支援や人材育成などを行う。HanaLab.の取り組みは、2013年に信州協同大賞優秀賞を受賞するなど、地域における人材活用のインフラとして全国的に注目を集めている。

文/横堀夏代 撮影/ HanaLab.