2017.4.10

WorMo’的ワークスタイル

100歳まで働ける社会を目指して

ワークスタイル情報/高齢者パワーを地域に生かす

もっと楽しく、自信を持って働きたいワーキングマザーに向けて、様々なワークスタイルを紹介するワークスタイル情報編。今回は、高齢者をはじめさまざまな世代の女性が働きながら交流を深める場「BABAラボ」の代表である桑原静さんに、シニア世代のワークスタイルや、地域に多世代交流の場があるメリットについてお話を伺いました。

お年寄りが働きながら
地域で交流を深める場を創設
――まず「BABAラボ」について、どんな組織なのかお教えください。
「BABA」というのは、まさにおばあちゃんのことです。「100歳までいきいきと働き・暮らせる社会に」という理念のもとに、高齢者が働きながら地域の人とコミュニケーションできる場をつくりたい、と考えてスタートしました。50代から80代まで50名以上が登録し、工房に集まって働いたり交流を深めたりしています。最高齢は私の祖母で、今年88歳を迎えます。おばあちゃんだけでなくおじいちゃんも登録していて、会社員時代に培ったビジネススキルを生かして活躍しています。
――なぜこのような場をつくられたのですか?
まず、コミュニティビジネス(市民が主体となって地域が抱える課題をビジネスの手法により解決する事業)を実践する場をつくりたかったからです。私は前職としてコミュニティビジネスの事業相談などを行ってきたのですが、自分でも現場を持ち、実感に基づいたアドバイスなどをして、より地に足の着いた支援を行いたいと考えていました。また、私自身がおばあちゃん子だったこともあって高齢者の生き方にずっと興味があり、地域のお年寄りが特技を生かして活躍できる場をつくりたい思いがありました。「コミュニティビジネス」と「高齢者」という二つの関心事が結びついて、BABAラボ設立につながりました。
――シルバー人材センターなどとはどう違うのですか?
シニア世代に仕事を提供する組織はすでにありますし、地域コミュニティの中で高齢者同士が交流できるサロンを設けている地域もたくさんありますよね。ですが、両方の機能をもつ場というと、首都圏ではこれまであまりみられなかったと思います。BABAラボで働くことによって、地域の人たちと接点を持てるのがメリットといえます。
実際に、終の棲家として近隣に引っ越してきたスタッフの1名は、コミュニティを求めてBABAラボの門を叩いたという。
子育て世代の女性にとっても
希望の場に
――工房には、高齢の方だけでなく30代の女性やお子さんもたくさんいらっしゃいますね。
設立当初はお年寄りだけだったのですが、ものづくりの制作スタッフを募集したところ、子育て世代の女性がたくさん集まってくれました。そこで、自宅での作業だけでなく、工房にこどもを連れてきてお仕事をしてもらうことも可能にし、「多世代が交流できる場」という機能も持たせました。
――みなさんの反応はいかがですか?
お年寄りたちは、工房に連れてこられたこどもたちを「孫がたくさんできたようでうれしい」と喜んでいます。またママたちは、「おばあちゃんたちはこどもを可愛がってくれるし、ママ友とはまた違っておおらかな接し方をしてくれるので、心が安まる」といっています。それと、ここでお年寄りに接して「歳をとっても、こんなふうにやりがいを持って働くことができそう」と希望を見出す人もいますね。ここはコミュニティスペースではなく職場なので、どの世代の人も目的を持って訪れます。だからこそ、みなさん気兼ねなく出入りし、現在では成熟したコミュニティが育っています。
――常駐スタッフもいらっしゃるのですか?
私以外では、5人の40代女性がパートの形態で勤務しています。役割はそれぞれサブリーダー、WEB担当、顧客対応、営業、経理ですが、こどもの病気などで休むことも多いので、お互いの業務内容は共有するようにしています。BABAラボは自由度の高い働き方ができる場所なので、働きたい女性にとって「選択肢の一つ」になればと思います。
おばあちゃんの経験を生かした
孫育てグッズを展開
――BABAラボに登録しているお年寄りは、具体的にはどんなことをして働いているのですか?
手芸品をつくってもらうほか、設立当初から子育てグッズならぬ「孫育てグッズ」の製造やアイデア出しをお願いしています。孫育てグッズは、孫の世話をするおばあちゃんたちの「子育てグッズが使いにくい」という声をきっかけに開発した、お年寄りにも使いやすい育児用品のことです。これまでに、腕の力がなくても抱っこがしやすい「抱っこふとん」や、吊り輪付きのトートバッグ「しっぽトート」などの製品が生まれました。ただ、ものづくりに関しては、趣味の範囲を超える技術力をもつ人は少ないのも事実です。そこで、ものづくりにこだわらず、いろいろな役割を担ってもらっています。今後は、例えば高齢者の本音を集めて発信したり、お年寄りを対象にしたマーケティングや調査事業も展開していく予定です。
――おばあちゃんたちに働いてもらううえで、特に留意することはありますか?
歳を重ねるにつれて、細かいものが見えなくなったり、手先の動かし方がぎこちなくなったりして、「できないこと」がどうしても出てきます。工房でものづくりをしてもらうと、「以前に比べて刺繍のステッチが目に見えて粗くなった」といった変化がわかります。いち早く気づいて、代わりにできる作業を提案するなどの気遣いは必要です。できないことは増えていくけれど、「まだできることもある」という自尊心をもって働き続けてもらいたいですね。
――2016年には、岐阜県にも「BABAラボ ぎふいけだ工房」が誕生したそうですね。
さいたま市以外の場所にBABAラボをつくりたい、とはずっと考えていたのですが、地元の育児雑貨メーカー様から声をかけてくださってスポンサーになっていただき、思いがけず早く第2号の工房が誕生しました。岐阜を皮切りに、高齢の方が、地域の人とつながりながら働いたり、学んだりできる場所を全国につくっていきたいです。
「将来はBABAラボをやりたい」
娘の声に幸せを感じる
――ところで桑原さんもワーキングマザーですが、「BABAラボの運営が子育てに役立っている」と感じることはありますか?
娘と話をするときは、いつも感じますね。BABAラボにはこどもからお年寄りまでいろいろな年齢の人が出入りしているので、何かを発信するときは、どの世代にも通じる語彙を使って、ゆっくりしたトーンで話さないと自分の言いたいことが伝わりません。つい「スキル」とか「タスク」といったオフィス用語を使いたくなりますが、それもNGです。おかげで、こどもと丁寧にコミュニケーションするようになりました。
――お子さんが職場にいらっしゃることはありますか?
私の両親も夫の両親も近隣に住んでいて、娘を連れてよく訪れてくれます。他のこどももそうなのですが、お年寄りと同じ時間を過ごすうちに「おばあちゃんは身体のバランスをとるのが難しいんだな」など“できないこと”が自然とわかってきたようで、今ではサッと椅子を引いたりしてサポートしています。そんな娘の姿にふれると、「周りの人をよく見ているな」「優しいな」と成長を感じて幸せな気持ちになります。無邪気に「将来はBABAラボをやりたい」といってくれたときも、うれしかったですね。
――毎日たくさんの人と接する忙しい毎日ですが、気分転換はできていますか?
朝に家族を送り出してから出勤するまでの1時間、好きなマンガを読むのが至福のひとときです。メールのやりとりなどで時間が過ぎてしまうこともありますが、リフレッシュタイムとしてできるだけキープするようにしています。

BABAラボ

地域の高齢者が働ける場所として2011年に誕生。高齢者の経験やアイデアを生かした商品開発や製造・販売をはじめ、高齢者を対象としたマーケティングや調査事業などを展開する。2016年発売の哺乳瓶「ほほほ ほにゅうびん」は、キッズデザイン賞少子化対策大臣賞などを受賞。同年年末には、岐阜県に「BABAラボ ぎふいけだ工房」がオープンした。

桑原静さん

大学卒業後、WEB関連企業でコミュニティサイトの企画・運営に携わった後、NPO法人コミュニティビジネスサポートセンターに勤務。全国の自治体やNPOを対象に、コミュニティビジネスの切り口から支援を行う。2011年に独立し、埼玉県さいたま市で地域の課題に根ざしたコミュニティビジネスをサポートする「シゴトラボ合同会社」を設立。同年、コミュニティビジネスの現場として「BABAラボ」の運営を開始する。広域関東圏コミュニティビジネス推進協議会幹事。現在7歳の女の子のワーキングマザー。

文/横堀夏代 撮影/曳野若菜