2016.5.20

WorMo’的ワークスタイル

「文化財」×「宿泊」をビジネスに

Vol.19 ”文泊”でディープな日本文化を紹介

先日開催された「ママ起業家プレゼンmirai」でWorMo’サポート賞を受賞した浅枝真貴子さん。彼女が進めるのが、神社仏閣などの文化財に宿泊する“文泊”だ。日本ママ起業家大学(通称「ママ大」)の現役ママ大生でもあり、文泊の着想もママ大での学びの中で得たという。今秋からの本格的な始動に向けて東奔西走する浅枝さんに、文泊に行き着くまでの経緯から文泊のビジョンまで、たっぷりと伺った。※「ママ起業家プレゼンmirai」の様子はコチラ

出産を期に、仕事一筋から転向。
仕事も育児もできる働き方を模索する
浅枝さんは、ダイナミックなキャリアを持つ。広告代理店に勤務後、(株)リクルートに転職。新規事業開発や営業、企画などに携わり、「仕事も会社も大好きで、バリバリ働いていた」という。そんな浅枝さんの最初の転機は、一人目の妊娠・出産だった。
「仕事が好きだったので、出産前は産後すぐにでも復職する気でいたのですが、実際にこどもが生まれてみると、かわいくて仕方なくて…。ずっと一緒にいたくて、このまま専業主婦になろうかとまで考えました。でも、こどもが成長するにつれて、やっぱり働きたいと強く思うようになりました。私にとっては、仕事と子育ては表裏一体。外にコミュニティがあってこそ、子育ても楽しめるのだと気づいたのです」
当時のリクルートでは、女性の出産後の復職率は1〜2割程度で、これを5割にまで挙げるという目標のもと、社内ダイバーシティ企画が立ち上がっていた。その1期生として、浅枝さんも1年の育児休暇を経て復職。時短勤務を続けながらも、トップ営業ウーマンとして表彰されるなど実績を残していった。しかし、華々しい業績の影で、悩みも抱えていた。
「時短勤務でも、実際は、こどもを寝かせつけてから自宅で深夜に仕事をしていました。仕事が好きという気持ちは変わらなかったのですが、体力的にも厳しく、こどもとの時間をもっと持ちたいという思いもあり、時間が自由に設計できる働き方を模索していました」。
2人目の妊娠をきっかけに、現在の働き方を続けるのは厳しいと考え、リクルートを退職。これまでの経験を活かし、企業のコンサルティングや研修プロデュースなどを請け負うフリーランサーとして独立した。しかし、「こどもが寝てから夜中に仕事」というスタイルは変わらず、思いのほか時間は自由にはならなかった。
そこで考えたのが、不動産のオーナー業だ。都内にある古い倉庫を買い取り、SOHOやフリーランサーに向けたレジデンスに建て替えた。「不動産業は母の仕事でもあったので、知識はありました。とはいえ、億を超える資金集めには本当に苦労しました」と、やはり女性一人で始める事業としてはハードルが高い。しかし「実際に始めてみると時間というかけがえのないものを得ることができ、特にこどもと過ごす時間が増え、保護者会や地域の集まりに参加することで仕事以外でのつながりも拡がりました」
 “宿泊×日本文化の体験=文泊”
ママ大での学びから着想を得る
不動産業界には知見のあった浅枝さんだが、ソーシャルレジデンスを手がけたことで、“暮らし×シェア”の面白さに気づいたという。折しも、空き家を宿泊施設として外国人観光客などに貸し出す“民泊”が国内でも拡がりを見せており、浅枝さんもその動向に注目をしていた。
「民泊にはとても興味があったのですが、トラブルなども問題になっていて、現状では法律上も“グレーゾーン”です。良い発想だしニーズもあると感じ、これを何とかしてビジネスにできないかと考えていました。ただ、不動産業界には男性が多く、経済の観点から物事を考える傾向にあります。そこに違和感を覚え、女性ならではの視点や感覚が活かせないかと考えました」
そこで浅枝さんは、女性目線での起業のヒントを得ようと、日本ママ起業家大学(ママ大)へ入学。文泊のアイデアを思いついたのは、ママ大でのケーススタディでのこと。「外国人観光客は、日本に来て何をやりたいか」という論点で他のママ大生と意見を交わし合うなかで、“日本文化の体験”に行き着いた。そして、“宿泊”と“日本文化の体験”を掛け合わせ、神社仏閣などの文化財に宿泊する“文泊”の発想が生まれた。
日本ママ起業家大学の近藤洋子学長との出会いがきっかけで、ママ大へ入学。4期生として現在も在籍中。「ママ起業家プレゼンmirai」では最終6名のプレゼンターに選ばれた。
行動力と幅広い人脈を活かし、
ビジネス化に取り組む
行動力のある浅枝さんのこと、アイデアを思いつくとすぐに行動に移した。お寺や神社などに足を運んで、文泊への意見や寺社の現状についてのヒアリングを重ねる一方、前職でのつながりからママ友まで幅広い人脈を活かして人的ネットワークの構築にも務めた。また、旅行業界の情報も収集し、ターゲットを台湾人観光客へと絞り込んだ。台湾からは年間368万人あまりが来日する。その多くが個人旅行であり、リピーターが多くディープな日本を知りたいというニーズがあることから、メインターゲットに選んだという。
「海外の方に知られている日本文化は、表面的なものに過ぎません。もっと奥深い魅力を知ってほしい、感じてほしいという思いが、私のビジネスの根幹にあります。そして、海外に広げることで逆に日本国内での認知も高め、日本人自身が日本文化の魅力を再発見する機会を提供できればと考えています。東京オリンピックを控えた今こそ、そんな時期に来ているのではないでしょうか」
現在は、1泊2日の神社体験や2泊3日の巫女体験といった夏のトライアルツアーに向けて、寺社をはじめ各方面と提携しながら準備を進めている。台湾在住(駐在)経験のあるママや元同僚のフリー観光コンサルタントらによる集客・運用面でのサポートに加え、各プログラムの企画・運営はママたちが中心になって行う予定だ。
「私自身も含め、ママたちが活動する姿を見ることで、こどもたちにも日本文化や“日本らしさ”を理解し、誇りに感じてもらいたいと思っています。そして、世界を身近に感じ、世界中の人々とつながれる真のコミュニケーション力を身につけてほしいと願っています」
人と人、寺社と旅行者をつなぎ、
出会いをプロデュースする
スキルのある人材を集め、能力をさらに引き出し、活躍の場を提供する。そんな“人をつなぎ、プロデュースする力”に長けた浅枝さん。「私自身はたいしたことないんです」と謙遜するが、豊かな発想力や企画力、行動力はもちろん、具体的に物事を進める推進力もある活力あふれる女性だ。トライアルツアーを経て今秋には文泊を本格的に始動させ、将来的には、宿の提供者と旅行者をつなぐメディア(マッチングサイト)をつくるのが目標だ。
「まだ走り出したばかりで先は見えませんが、自ら価値を生み出す仕事ができる喜びを感じ、今は毎日がとても楽しく充実しています」と笑顔で話す浅枝さん。2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、今後は海外からの観光客のさらなる増加が予想される。そんな時流の後押しもあるなか、日本文化を肌で感じ、深く知ることができる文泊の、今後の展開が期待される。
夏のトライアルツアーは、居木神社の協力により実現。宮司・森田義巳さんは、「東京オリンピックに向け、外国人観光客の受け入れや日本文化の発信に、神社も積極的に取り組む必要があると感じています」と語る。
【取材協力】居木神社

文/笹原風花 撮影/石河正武